っぽん零年 (日活:藤田 敏八/河辺 和夫 監督)

 1968年、日活において当時若手の浦山桐郎、藤田敏八(当時は繁矢)、斎藤光正、河辺和夫…の4人の監督たちによって、その時代の若者たちに密着取材したドキュメンタリーを作るという企画が起こり、途中まで撮影した所で会社から中止命令が出て、映画は製作中止となった。たしか題名は「にっぽんの若者たち」だったと思う。当時キネ旬でそのニュースを知って残念に思った記憶がある。
 しかし、実は中止命令後も藤田らは密かに撮影を続け、映画はこっそり完成していたのである(ただし浦山と斎藤は降りた)。映画は上映の機会もなく封印されていたが、1995年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映され、その一般公開が待たれていたのである。そしてようやく昨年、ミニシアター系でレイトショーながら上映された。
 テーマは3つ。学園闘争に打ち込む大学生、新宿で無目的にさすらうフーテン(懐かしい。今や死語である)、そしてやはり大した目的もなく自衛隊に入った若者…。この3人の生活にカメラが密着し、インタビューし、その心の内面に迫ろうとする。彼ら、彼女たちはそれぞれに悩み、自分自身を見つける為に苦闘し、またある時は目的を見つけられず立ちつくすのみ。…しかし、確かに彼らは1968年という時代の証言者でもあるのだ。私も彼らと同世代…、あの時代の空気を知っている。それだけにこの映画を見て、とても懐かしく、あの頃を思い起こした。
 ただ映画としては、残念ながら、時間の制約か、企業映画としての限界か、掘り下げも浅く、単なる記録映画の域を出ていない。何より、当初の予定通り69年に公開されていればまだしも、この2年後のよど号事件、三島由紀夫割腹自殺、さらに2年後のあさま山荘事件…と続く衝撃の事実を経過した後では、この映画(及び登場する若者たち)の存在はいかにも軽い。仕方のない事ではあるが。
 まあ収穫としては、この映画でフーテンや当時の若者たちを取材した経験が、後の藤田敏八監督らによる、時代の空気を見事に捉えた日活ニューアクションに開花したのではないかという気がする(藤田監督の「野良猫ロック・暴走集団'71」には、新宿のフーテン、右翼の警護団、学園闘争風アジ演説…等が登場する)。そういう意味で、歴史的価値はある…と言えるのではないだろうか。