宣戦布告 (東映配給:石侍
露堂 監督)
あまり期待しないで観に行ったが、予想に反して面白かった。北朝鮮(映画では北東共和国と仮名になっている)の武装工作員が日本海の敦賀に上陸し、それを鎮圧する為に自衛隊が出動し…と、もしそんな事態になったら政府はどうするか…という、シミュレーション的なポリティカル・フィクションで、まず、よくこんなストーリーを日本で!映画化しようと考えた、その勇気に敬意を表する。とにかく今の大手映画会社は勇気と決断力がない。オウム事件ですらなかなか映画化出来ず、40年も前に「帝銀事件・死刑囚」を作った熊井啓監督が結局独立プロで低予算で「日本の黒い夏−冤罪」として映画化にこぎ付けたように、勇気ある監督もまた少ないのが現状である。本作は製作費もかなりかかる事が予想されていたので、まず映画化は不可能と思っていたのだ。これを製作・監督した石侍露堂(せじ・ろどう)という人はよく知らないが、独力で自分で金を出して映画化しただけでも、かなりの行動力のある人と思われる(製作費は7億円)。
(以下、ややネタバレがありますので、未見の方はご注意ください)物語は、なかなか自衛隊の出動に踏み切れない、今の日本の現状を的確に描いている。総理大臣(古谷一行)は何事にも慎重で(裏を返せば優柔不断)、最初は警察が立ち向かう。だが現場が状況から“射殺許可”を出したのに、それを聞いた首相たちがあわてて「射殺なんてとんでもない」と取消を命じ、その間に警官たちが攻撃されて殉職したり…と、実際にもこんな調子になるだろうな…と思わせるあたりがなかなか皮肉・風刺が効いている。で、ようやく首相が自衛隊出動に踏み切るが、なんと自衛隊側に死人の山…。弱すぎるのでは…という人もいるが、「シュリ」でも描かれていたように、あちらは本格的な殺人・戦闘訓練を受けた、死をも恐れない特殊戦闘員…それに対して平和日本の、憲法にも認められない軍隊なんて到底相手になるわけがないのである。
一部で、有事立法を推進するキナ臭い作品では…と言う人もいるが、そうではない。いくら法律を作っても、運用する側に適切な処置を取れるリーダーシップを持った人材がいなければ何の役にも立たないものである事を、この映画は痛烈に喝破しているのである。これは本年の力作「突入せよ『あさま山荘事件』」と並ぶ、我が国の危機管理能力のお粗末さを、そして中央が机上で議論している間にも、犠牲になるのは常に前線の隊員たちである事を描いた、優れた政治批判映画なのである(一触即発の事態になって、同意したはずの閣僚の一人が「だから私は反対したんだ」と言い出すシーンには大笑いした)。石原都知事がこの映画を見て激怒したそうだが、それも納得できる(笑)。ヘリのCGがややお粗末だったり、ラストがいま一つであるなど、難点もあるが、それでもよくぞこうした映画が日本でも作られた、その事は大いに評価すべきである。そういうわけで、点数はやや甘い。製作費が50億円くらいでもあれば、洋画なみの出来になったであろうに、それが残念ではある。あまり宣伝されていないようだが(配給会社もやや腰が引けてる?)、見ておいて損はない。蛇足だが、製作されたのが2年前である為か、“大蔵大臣”(今は財務大臣)というセリフが出て来るのには苦笑した。
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