折り梅  (松井 久子  監督)

 アルツハイマー型痴呆症にかかった義母と、彼女を介護する家族の苦悩と葛藤の物語。こういった題材の映画はこれまでにも「恍惚の人」(豊田四郎監督)、「花いちもんめ」(伊藤俊也監督)などが作られており、いずれも佳作だった。やはり痴呆になった老人の行動に悩み、家族がバラバラになる一歩手前まで行くあたりも共通している。しかし前2作とやや異なるのは、冒頭義母(吉行和子)と妻(原田美枝子)が笑顔で連れ立って歩くシーンにも象徴されるように、暗い題材であるにもかかわらず、明るく、希望さえ感じられる作りになっている点だろう。実際、義母の言動にはやりきれなさも漂うが、どことなくユーモラスなシーン(例えば、ハンカチを互いに投げ合ったりする所)を多く挟んだり、夫の役に漫才師のトミーズ雅を起用したキャスティングにもそうした意図が感じられる。
 そして物語は後半、意外な展開となる。リハビリの一環として、義母に絵を描かせてみたら、喜々としてそれに取り組み、どんどん上達してコンクールに入賞するまでになる。とても痴呆老人が描いたとは思えないほど、その絵は素晴らしい作品となっていた。人間として壊れてしまった…と周囲が感じてしまっていた老人でも、うまくリードすれば隠れた才能を導き出す事も可能だという事だろう。むしろ子供のように、イノセントな心だからこそ美しいものを素直に表現することが出来るのかも知れない。…この物語は実話(原作・小菅もと子「忘れても、しあわせ」)で、映画に登場する絵はその老人が実際に描いたものだという。…この事は、痴呆老人だけでなく、子供の教育にも共通する重要なサゼッションではないかと思う。叱りつけ、押さえつけるよりも、隠れた才能をどう引き出し、伸ばしてあげられるか…そのことの大切さを、静かに、淡々と訴えかけ、爽やかな感動を呼ぶ作品となっている。

 この映画は、昨年に完成し、原作者の地元、愛知県で先行公開され、評判となって全国公開が実現した。大阪ではミニシアターのモーニングショーを主体とした、小規模の公開となっているが、もっと大きくPRし、是非多くの人に見てもらうべきではないかと思う。前述のように、老人介護に留まらない、人間として考えなければならない大きなテーマを含んだ作品だと思うからである。見るべし。