ムーラン・ルージュ   (20世紀Fox:バズ・ラーマン 監督)

 我が国初登場の「ダンシング・ヒーロー」以来お気に入りのバズ・ラーマンの新作。前作「ロミオ&ジュリエット」では、舞台設定を現代にした大胆な構成で楽しませてくれた。今回もミュージカル形式で、冒頭からロジャース&ハマースタインの「サウンド・オブ・ミュージック」の曲から始まり、「愛こそはすべて」他のビートルズ・ナンバー、そして極めつけはマドンナの「ライク・ア・バージン」を歌い、踊り、上空に浮かぶ月まで人間の顔になって歌うという具合で、実に楽しい作品になっている。
 大体が登場人物が突然歌い、踊りだすというミュージカルそのものが現実離れしており、すべては嘘の世界。観客も現実を離れてひと時、夢の世界に浸れればそれでいいのである。あまり現実的な世界を持ち込んでは、素直に夢の世界で遊べないのである。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」をいま一つ好きになれないのはそこにある。その点本作は、ラーマン独特のキッチュな遊び心がほど良い水準で展開され、ミュージカルの楽しさが満喫できる仕上がりとなっている。物語としては悲しいのだが、こういう作りにした事によって、見終わっても後味は悪くなく、いい気分で劇場を後に出来るのである。