アトランティス/失われた帝国 (ディズニー:ゲイリー・トゥルースデイル/カーク・ワイズ 監督)

 ディズニー生誕100周年記念映画だそうだ。しかし、それならディズニー・アニメの原点たる童話や動物ものが最適と思うのだが、なぜか、主流とは異なるミステリー・アドベンチャーものが登場した。しかも、メカ戦闘シーンやらロボット兵なども出てくるのだから、これはどちらかと言うと日本アニメのおハコ…。ディズニーの得意分野ではないのである。さらに心配だったのが、早い時期からネット上で、この作品は日本製テレビアニメ「ふしぎの海のナディア」のまるごとパクリであるという情報が飛び交い、公開前から喧々轟々の議論が巻き起こっていたからである。
 比較サイト(
http://www2.freenet.jp/nadia/nadia_vs_atlantis_jp.html)を覗くと、確かにストーリーも登場人物の設定もよく似ている。しかし私は次の2点において、そう決めつけ、非難するのは当らないという判断である。
 まず第一。私はある程度まではキャラクターやストーリーは過去の作品からいただいても構わないという認識を持っている。むしろ芸術とは模倣である…とさえ考えている。ピカソだっていろんな先人の作品を模倣しているうちに次第に独特の世界を築き上げたわけだし、黒澤明だってジョン・フォードやジュールス・ダッシンやダシール・ハメットなどの作品から巧妙にアイデアをいただき、消化しているのである。アニメに至ってはまさに模倣・パクリのオンパレードで、「ふしぎの海のナディア」自身が宮崎の「天空の城ラピュタ」のほとんど模倣である。かつての日活アクションやイタリアン・ウェスタン、香港活劇など、もうあきれるほどのパクリ、いただきのオンパレードであった。でもエンタティンメントとしては無類に面白くて楽しませてもらった。…要は、オリジナルのいい所を吸収し、それを上回る面白い物を作ってくれればいいのである。
 第二に、比較サイトについてだが、細部のみピックアップして無理矢理こじつければどんな作品だって似た所はある。そういう、一部分だけをとらえて、パクリだと決めつけるのは感心しない。やはり作品全体の作りや雰囲気を確認したうえで判断すべきであると思う。
 …以上をふまえた上で、先入観なしでこの作品を見た。うむ、確かに似た所がないでもないが、細部で異なるところも多く、まあこの程度なら私自身は許容範囲ではないかと思う。−むしろ、「ラピュタ」や「ナウシカ」(巨神兵かラピュタを護るロボットと似たものが出てくる)「もののけ姫」(土俗的なマスクを被っているヒロイン)などの宮崎アニメへのオマージュがあちこちに散りばめられていて、そちらに笑ってしまった。ディズニーには宮崎ファンが多いそうで、その影響もあるのだろう。…しかしねえ、天下のディズニーが日本アニメにオマージュなんて、プライドがないんかいな…と思う。手塚治虫はじめ多くの作家に影響を与えて来たディズニー・アニメだよ。故・ウォルトが生きていたならそんな事はさせないと思うよ。
 で、最後になったが、肝心の作品の出来について…。はっきり言ってつまらない。ヒロインに全然魅力がないし(こんな没個性のヒロインは珍しいのではないか)、ストーリーも手垢のついたパターン。クライマックスの展開もそこへ持って行く説得力に乏しい(ヒロインが水晶体になってしまう意味が不明だし、それを持ち帰る事に何のメリットがあるのか。母親の場合は自身を犠牲にしたのに、ヒロインは無傷で何で戻ってこれたのか…等々)。本来苦手なアクションに挑戦して、ぶざまに失敗してしまっている。これが生誕100周年記念とは情けない。パクリうんぬん以前の問題である。レビューの採点も散々だし、興行成績も3週目にして早くもベストテン圏外に去ってしまった。パクリ疑惑の上にこの不出来…。ディズニー・ピクチャーズは、初心に戻って本当に創始者ウォルト・ディズニーが描きたかった世界をもう一度再構築すべきではないだろうか。CGの映像部分のみまあまあだったので、採点は 
)とするが、ワースト候補ですな。