ピストルオペラ  (小椋事務所:鈴木 清順 監督)

 鈴木清順、10年ぶりの新作である。カラフルで、奇想天外で、万華鏡を覗いているような、おもちゃ箱をひっくり返したような、いつもの清順タッチである。そして、秀作「殺しの烙印」の続編として、前作で宍戸錠が演じた花田五郎(今回は平幹二郎が扮している)が、34年の年月を経て再登場である。「仕事の後には米の飯と女が無性に欲しくなる」だとか、「前にはアドバルーンで脱出したこともある」だとか、前作を知っている人にはニヤリとさせられるセリフもある。ラストで「俺がナンバー1だ」とも言っている。また瀕死の重傷を負った主人公野良猫が、「ツィゴイネルワイゼン」に出てきたような三途の川の幻想を見るシーンもある。ファンにとってはなかなか楽しいところである。
 しかしね、何かくい足らないのです。昔のような、心ときめく、琴線に触れる高揚感が今ひとつ感じられないのです。昔見たり聞いたりしたシーンはあっても、ただそれだけで、「これは清順映画のセルフ・パロディ?」と考えてしまうのです。かつて清順さんが築き上げた、あまりに高いハードルを、歳をとって自分自身で越えられなくなってしまっている…手厳しいですが、そんな感じを受けてしまったのです。
 で、考えたのですが、昔の清順映画はよく考えたら、ほとんどB級プログラム・ピクチャーだったわけですね。毎週々々無数に量産されていたB級映画の中で、いろいろ工夫を凝らして遊んでいた…そういう映画だったわけである。「殺しの烙印」だって、その頃立て続けに作られていた宍戸錠主演のハードボイルド・アクションのうちの1本…。「刺青一代」だってそうで、本体は正統プログラム・ピクチャーで、それだけでもちゃんと楽しめる作品なのに、さらに清順流モダニズムと諧謔精神が付加されていた…。それが清順映画だったのである。清順流の遊びのシーンがなくたって、エンタティンメント作品だったのである。
 今回の「ピストルオペラ」、万華鏡のような清順ブランドの映像なしで、娯楽映画として楽しめるかと言えば、そうなっていない…。かと言って「ツィゴイネルワイゼン」のような完成された芸術作品でもない…。これがこの映画の弱点なわけである。普通のB級娯楽映画作ってくれればいいのに、周りが巨匠扱いしてヘンに考えてしまったのか、それともB級娯楽映画が作りにくい時代になってしまったのか…。そんな事を考えざるを得ない、そういうやや悔しい、しかし決して駄作ではない、これはこれで今の時代における清順映画には、違いはないのである。