ターン     (平山 秀幸 監督)

 北村薫の“時についての3部作”の1編「ターン」の映画化作品。交通事故にあった女性(牧瀬里穂)が、意識が戻ると自分以外誰もいない世界で、しかも同じ1日を毎日果てしなく繰り返すこととなる…。
 これを映画化するのは正直言って難しい。まず映像的に困難だし、北村原作はどちらかと言うと、その絶妙な語り口を楽しむように出来ている(原作は、誰もいない世界を2人称で語るという離れ業(?)を見せている)ので、文章としては面白くても映画としては失敗作となる可能性が非常に高いのである。実際、唯一の映像化作品とも言うべき、NHKで放映された「スキップ」は、北村作品の良さをまったく理解できていない凡作でありました。
 ところが、さすが前作「愛を乞うひと」で日本アカデミー賞など各賞を総ナメした実力派平山監督、これらの関門を軽々とクリアした。まず誰もいない世界は、ロケ現場の交通を遮断したうえ、遠景はCGで通行人を消した為、道路の遥か彼方まで人影が見えないという見事な映像を作り出している。前作でもラストの二人の原田美枝子対決シーンでCGを巧妙に使った平山監督、さすがである。
 無論、それだけでなく、ひとりぼっちになった世界における主人公の不思議な日常を、小道具などもうまく使って飽きさせずに描いた演出もいい。そして、やがてふとした事から現実世界と繋がった1本の電話を媒介に、デザイナーをやっている男(中村勘太郎)との、一度も顔を会わさない、声だけによる交流を経て、彼女が必死に現実世界に戻る意欲をかきたてて行くプロセスがスリリングである。二つのパラレルワールド間における、同じレストランで二人が互いに見えないデートをするシーンが面白い。
 毎日が永遠の繰り返しであるという世界を描いたものでは、洋画で「恋はデジャ・ブ」というのがあった。あちらはハロルド・ライミス主演のコメディで、まあ可もなし不可もなしと言った出来。こちらの方が出来は数段上である。

 ラストがいい。原作もあのラストでジーンとなるのだが、映画の方もほとんど原作のイメージを損なわずにうまく映像化している。原作をぶち壊しにする映画化作品が多い中で、あの難しい原作のムードをここまで巧妙に映像化しただけでも大したものである。さすが平山秀幸!
 牧瀬里穂の、透明な存在感が作品にうまくマッチしている。それにしても彼女、出世作の「東京上空いらっしゃいませ」(先日亡くなった相米慎二の佳作)といい、幽界をさまようファンタジーによくよく縁のある、不思議な女優である。