GO     (東映:行定 勲 監督)

 第123回直木賞を受賞した金城一紀のベストセラーの映画化。原作もなかなか面白いが、在日朝鮮人を主人公にしているので、映画化するにしても、なんか硬いものになる気がしていた。ところが、原作の持ち味をうまく生かした宮藤官九郎の脚色もいいし、演出の新人・行定勲がこれをさらにMTVのような感覚で斬新な映像と語り口を見せ、パワフルに疾走する素晴らしい青春映画の傑作が出来上がった。
 冒頭から、目まぐるしいくらいにカメラがよく動く。それにハイスピードとスローモーションを自在に組み合わせたモンタージュが絶妙(ガイ・リッチーの「スナッチ」の影響あり)。まずここで観客をノセてしまう。ケンカのシーンもテンポよく(鈴木清順の「けんかえれじい」のおおらかさと元気さを想起させる)、青春の一断片をザックリ切り取ったような演出は荒々しいようで、実は計算が行き届いている。主演の窪塚洋介がいいし、彼に好意を寄せる柴崎コウ(「バトロワ」の快演も記憶に新しい)がまたも好演、破天荒な両親役を演じた山崎努・大竹しのぶも実にうまい!その他でも、級友の山本太郎、細山田隆人(「五条霊戦記」でかわいらしい義経の替え玉を演じていた)なども好演。すべてのアンサンブルがいいのである。
 演出の切れ味は、地下鉄駅構内で行われるスーパー・グレート・チキン・レースのシーンでも如何なく発揮される。実際の地下鉄(フィルム・コミッション制度により神戸の地下鉄が協力)でロケしたこのシーンは、スリリングで凄い迫力である(こういうシーンが撮影出来るようになった事だけでも素晴らしい)。こうした、何者にも捕らわれない主人公の行動を追う事によって、深刻になりがちな、在日の問題についても、「国境」も「差別」も「それがどうした」とばかりに蹴散らして行く。それが爽快である。
 後半は一転、主人公は、彼に好意を寄せる少女・桜井に自分が在日である事を打ち明けるかどうかで悩む。ヘタをするとここで映画は失速してしまいかねないが、ここでも父親との対決をはさむ事によって深刻になるヒマすら与えず、物語は一気にラストに向かい、爽やかな幕切れで映画は終わる。ここはやや甘いという声も聞かれそうだが、あらゆる困難も悲しみも爽快に弾き飛ばして来た主人公たちは、これからもどんな困難があっても軽々と乗り越えて行くだろう事を予感させる…それでいいのである。
 暗い、ダサイと言われ続けて来た日本映画のイメージを180度変えてしまう…そんな素晴らしい青春映画が登場した。傑作である。必見!