真夜中まで (和田 誠 監督)
イラストレーターでありながら、これまで「麻雀放浪記」「怪盗ルビィ」「怖がる人々」と映画監督もやって来た和田誠の新作。今回は初のオリジナル・シナリオである(長谷川隆と共作)。
ストーリーはさすがミステリーとジャズ愛好家(植草甚一氏とか原ォ氏とか、いかにも通の人にこの手の愛好家は多い)の和田氏だけあって、ジャズ・トランペッターがふとしたことから事件に巻き込まれ、犯罪組織からも警察からも追われるハメになるという、典型的なヒッチコック流巻き込まれパターンのミステリーとなっている。冒頭からして、駐車場からクレーン・ダウンしたカメラがワンカットでジャズ・バーの窓から入り、演奏している主人公(真田広之)のアップを捕える…というように、ヒッチ映画のテクニックが応用されている(ヒッチの「第3逃亡者」ですね)。そして小道具の使い方もうまい。トランペットのマウスピースが最後までうまく使われているし、音楽も冒頭がタイトルを連想させる「ラウンド・ミッドナイト」だし、童謡の「月の砂漠」なども出し方がシャレている(マウスピースが金と銀の2種類登場するが、これが「月の砂漠」の“金と銀との鞍置いて−”の歌詞にも対応している)。
そして何よりうまいのが、映画内の時間と実際の時間をシンクロさせ、12時までに戻らなければならない…というタイムリミット・サスペンスとしてのストーリーの練り方である。見ていない人の為に、くわしくは書けないのだが、何故時間までに戻らないといけないか、何故警察に駆け込むことができないか…などの理由にうまく工夫が凝らされている。最初はイヤイヤながらヒロインに付き合っていた真田が、次第に彼女に惹かれて行き、心が打ち解けて行くプロセスもなかなか丹念だし、傍役の配置も手堅い。猛特訓で本当に吹いているように見える真田の演奏シーンは特筆もの。ラストの「月の砂漠」の演奏はジーンと来ます。
難を言えば、あの程度の事件で臨時ニュースが流れたりするのか?など、やや突っ込みたくなるシーンがなきにしもあらずだが、これは全体のムードを楽しむ作品なのだから、野暮は言わない方がいいでしょう。あと、時計はもう少し頻繁に出した方がより時間に追われるスリルが増したのではないか…というのが注文。
カメオ出演も豪華、かつシャレている。三谷幸喜さんが出るシーンは傑作です(これは書いていいと思うが、テレビで三谷さんが見ているのが「素晴らしき哉!人生」である)。これは三谷監督の「みんなのいえ」で和田さんがカメオ出演したお返しかと思ったが、この作品が作られたのはなんと'99年だという。つまり2年間もおクラになっていたという事である。そして公開もほんのわずかのミニシアターだけである。こんな日本映画らしからぬ、洋画ファンにも楽しめる、素敵でシャレた佳作がさして宣伝もされず、ひっそりと公開されるのは問題ではないか。こういう映画こそじっくり時間をかけて宣伝して、ファンに浸透して行く…という方法が取れなかったものか。その点が残念であり、今の興行システムの欠陥ではないか…とさえ思えるのである。ともあれ、映画ファン(特にミステリー映画ファン)は必見の佳作である。 ()