蝶の舌  (スペイン/ホセ・ルイス・クエルダ 監督)

 これは傑作である。今年のベスト3に入れたい、見事な力作である。
 1930年代のスペイン。喘息持ちの無口な8才の少年モンチョが、学校で、やさしく思いやりのあるグレゴリオ先生
と出会い、教えられ、成長して行く物語。ほとんどおじいさんのようなこの先生がユニークで、生徒を森へ連れて行き、自然の中で生きる鳥や蝶の生態を通じて、人が生きて、愛して、生活することの大切さを教えて行く。池で少年が密かに好きな少女が仲間と水浴びしているのを見つけると、先生はモンチョに、鳥と同じように蘭の花を少女に渡すように言う。花をもらった少女がモンチョの首筋にキスをするシーンが微笑ましくていい。こんな風な、少年と先生の心の交流がとても爽やかで素敵である。教育とは、本来こういうものなのかも知れない。
 しかしこの映画はラストで突然、この国(スペイン)の、この時代の過酷な現実を突きつける。映画を見ていない人の為にくわしくは書かないが、とても衝撃的で、せつなくて感動的なラストである。最後、少年の動きがコマ落しとなり、静かにストップするラストでは涙が溢れた。これほど感動的な映画は久しぶりである。モンチョ少年を演じたマヌエル・ロサノの演技(特にラストシーン!)は実に自然でうまい。それとグレゴリオ先生を演じたベテラン、フェルナンド・フェルナン・ゴメスの名演技も素晴らしい。ラストまでの人々の生活ぶりが平和で牧歌的なだけに、余計あの時代の不幸と、現在の平和が鮮烈に照射される構成になっている。見事な脚本(スペイン・アカデミー・脚本賞受賞)と演出である。
 あまり製作費もかかっていないだろう。しかし原作(スペイン国民文学賞受賞)・脚本・演出が優れていればこれほどの傑作が出来るのである。ふりかえって、今の日本でこれほど、時代と国家の歴史と人生を深く見つめ、感動させられる作品が作られるだろうか。その現実にも暗澹とせざるを得ない。日本の映画人もぜひこの作品から、何かを学びとって欲しい。必見!