パール・ハーバー  (タッチストーン:マイケル・ベイ 監督)

 いろいろと噂の超大作。かなり否定派の声が多いようだ。私はそんな噂に惑わされる人間ではないので、白紙の状態で見た・・・のだが…。この作品、想像を遥かに?超えた愚作であった。
 まず、ストーリー。これがなんとも陳腐。友情で結ばれた二人の男と、そのうちの一人レイフを恋した女(イヴリン)。そこまではいい。レイフが志願して戦地に赴き、戦死の知らせが入り、悲しむイヴリンをなぐさめるうちにもう一人の男・ダニーがイヴリンに恋してしまう。そこへ死んだと思っていたレイフが帰って来ての三角関係・・・。もうほとんど新派悲劇か、お昼のメロドラマ並みですね(笑)。おまけにそこに至るまでがダラダラと長くて退屈。もっと観客が納得できる行動と展開が必要なのに、脚本も演出もその辺が実に大雑把(だいたいお腹に子供がいるイヴリンがあんなに走り回って流産しないのか心配になるし、東京大空襲の時は妊娠7カ月くらいのはずなのに、お腹が全然目立たない(笑))。まあ荒っぽいアクション演出が取りえのマイケル・ベイにそこまで望むのは無理か。
 もっとひどいのが時代考証。だいたいまだ第2次大戦に参戦していないはずのアメリカ軍兵士がイギリス空軍に参加してドイツ軍の飛行機を撃ち落すなんてとんでもない。これ分かったら国際問題に発展しかねない不祥事ですよ。いくらドラマ展開上必要だと言ってもムチャクチャだ。細かい所ではゼロ戦の色が違う(映画では緑だが当時は銀色塗装だった)とか、日本軍の極秘会議を野原の真中でやってる(戦国時代じゃないぞ!)とか、その後の東京空襲では日本の軍需工場の屋根に大きく毛筆書体で「兵器工場」なんとかと書いていたりと、デタラメ放題。
 まあその程度までは笑ってすませるが、許せないのが、日本軍が真珠枠奇襲で、病院や民間人を攻撃するシーン。これは全く史実を曲げている。そんな事実はなかったし、あったら国際法違反だ。あるいは米軍兵士が沈み行く戦艦に閉じ込められ、溺れ死んで行く描写を必要以上にパセティックに描いたり・・・。宣戦布告が間に合わず、不意打ちのように見える奇襲も含めて、これらのシーンには明らかに日本軍は卑劣でズルイ軍隊だ・・・と思わせる意図が見え隠れする。結局は、あの大戦においてはアメリカ側が正義であり、戦争を終わらせる為に広島・長崎に原爆を落としたのも正しい・・・と言いたいのだろうか。まあノー天気な娯楽大作ばかり作って来たジェリー・ブラッカイマー(製作)がそこまで考えたとは思えないし、単に大ヒット作「タイタニック」の二番煎じを狙っただけなのだろうが…。
 そんなわけで、これは日本人が喜んで見に行くべき作品ではないと思う。「トラ!トラ!トラ!」は日本側とアメリカ側を対等に描き、宣戦布告が遅れた経過も丁寧に描いていて日本人が見ても違和感はなかったが、この作品にはアメリカ側の偏狭な視点しかない。幸いと言うか、これはアメリカ国内でも不評で興行的にも思わしくなく、映画史においても大した意味を持たないだろうというくらいの凡作になったので、ザマミロと言いたい・・・のだが、なんと我が国ではあの「
E.T.」に迫るくらい大ヒットしているのだそうな。それに輪をかけ、あろうことか、感動したり誉めちぎっている若い人も多いらしい。暗澹たる気持ちにならざるを得ない。それほどあの戦争は日本の若い人たちにとって風化してしまったということなのか。あるいはCGを多用した驚異のSFXとメロドラマが融合した「タイタニック」のような娯楽大作としか見ていないのだろうか(あちらは見事な秀作だったが・・・)。まあ最悪の凡作だったことで、私の点数は最低点(が一つ少ないのは、SFXの見事さでプラス点がついたおかげ)にすることができたが、これが出来が良かったらどう点数をつけようか、悩む所であった。ともあれ、本年度ワーストワンはこれで決定である。