けものがれ、俺らの猿と  (日本ビクター他:須永 秀明 監督)

 中野裕之と同じく、ミュージック・クリップ界からまた新人映画監督が誕生した。原作がさきごろ芥川賞を受賞した町田康(この人もミュージシャン出身。ちなみに彼は石井聰亙の「爆裂都市」に町田町蔵の名で出演していた)。主演が最近出演作が続いている永瀬正敏。それも、いずれもカルトな異色作ばかり(「PARTY7」「Stereo Future」「ELECTRIC DRAGON 80000V」…アルファベット題名ばかりだ!)。こういう経歴のメンツがそろったら、異色の作品になりそうなのは予測がつく。で、案の定かなり不思議な作品に仕上がった。
 ストーリーは、売れない脚本家の前にアヤシゲなプロデューサー(なつかしや、小松方正。怪演!)が現れ、金を出すから新作映画の脚本を書いて欲しいと依頼して来る。金欠で困っていた主人公が、いさんで取材旅行に出るが、行く先々で次々騒動に巻き込まれる…というもの。この旅行先で出会う人間が、いずれもヘンテコで、突然警察に留置されたり、奇天烈な人間に捕まったり(この相手が右翼スタイルで売り出している芸人・鳥肌実。これこそ怪演!)、まるで不思議の国に迷い込んだアリスの如きシュールな展開を見せるのである。自宅の部屋中に虫が溢れるシーンはまさに悪夢のようであり、ひょっとしたらこの物語全体が夢ではないかと思わせる。これはそんな感じの不思議な作品である。テイストとしては面白いが、こういった最近の若手監督(中野裕之、石井克人など)の特徴として、脚本の練り方がお粗末で中途半端。映像感覚は面白いだけに、例えばエンディングのオチになるほどというアイデアが欲しい。新人監督には寛容な方の私だが、さすがにこう中途半端作が続くと首をひねりたくなる。あえて苦言を呈したい。