火垂(ほたる)  (サンセントシネマワークス:河瀬 直美 監督)

 高倉健主演の「ホタル」と紛らわしい(しかも同じ年の公開だ)題名である(電話で言う時はどう使い分けたらいいだろうか?)。なんて余計な事はさておき、これは「萌の朱雀」で注目された、奈良を舞台に活躍する河瀬直美監督の新作である。
 冒頭の、火の儀式が圧巻である(どでかいタイマツの火の粉がドッと降りそそぐのだ)。お水取りに春日山の山焼きなど、奈良には火にまつわる行事が多い。中盤登場する元興寺の万燈会も一面ロウソクを立てる火の行事だ。そして永澤俊矢扮する陶芸家も火を入れたカマドを使う。ラストでは人生をもう一度やり直そうとするかのようにこのカマドをぶっ壊してしまう。題名の由来もその辺にあるのだろう。それと対比するように、水の扱いもポイントとなっている。雨の中、駆け出したヒロインを永澤がびしょ濡れになって抱きとめるシーンも印象的だし、近鉄奈良駅前の噴水にヒロインのストリッパー仲間(これが懐かしや日活ロマン・ポルノで活躍していた山口美也子!)が上半身裸になって飛び込み、踊りまくるシーンは圧巻である。大自然の象徴である火と水に囲まれ、生き、そして死を迎える(山口)主人公たちを通して、人間という不思議な生き物を見守り続ける監督の目はやさしく、時に厳しい。手持ち・ノーレフのザラザラしたカメラ(河瀬自身も一部担当)が、ドキュメンタルな効果を与えている。上映時間がやや長い(2時間44分)のが気になるが、見ておいて損はない力作である。それにしても昨年の「五条霊戦記」、今年の「EUREKA」に本作と、プロデューサー仙頭武則の活躍には目をみはる。頑張って欲しいとエールを送っておこう。