JSA  (韓国:パク・チャヌク 監督)

 韓国で、あの「シュリ」を上回る観客動員を記録した作品。「シュリ」はどちらかと言うとハリウッド・アクションをそのまま真似た活劇エンタティンメントであったが、本作は南北対立の政治状況を背景としたポリティカル・フィクションであり、ヒューマン・ドラマでもあり、なおかつ謎をはらんだサスペンスとしても見応えのある力作である。現在なお緊張漂う、しかし南北党首会談が昨年実現し、南北統一が俄然視野に入ってきたという微妙な状況下で、この作品は実にタイムリーに登場したものである。
 朝鮮半島38度線上の共同警備区域(JSA)で、謎の射殺事件が起き、双方の当事者の証言が食い違う。いったい真実はどこにあるのか・・・。と聞けば、これは黒澤の「羅生門」を思い起こさせる。そう、まさにこれは“羅生門”的不可思議な人間ドラマなのである。同時にこれは、南北分断の状況下で起きてもおかしくない悲劇であり、こういう悲劇を起こさない為には政治は、国民は何を考え、どう行動すれば良いかを考えさせる、そんなパワーをも秘めた素晴らしい作品に仕上がっている。見事である。まさにこれは、“時代を呼吸している”映画であると言っていい。こういう作品が作られ、国民的大ヒットを記録しているのが、日本人としては実にうらやましい限りである。我々はこの作品に感動しているだけで、それでいいのだろうか・・・。