みんなのいえ  (東宝:三谷 幸喜 監督)

 「ラヂオの時間」以来4年ぶりの三谷幸喜2本目の監督作品。前作も大いに楽しめたが、今回はさらに面白くなっている。
 そもそも面白い映画とは、私はワンアイデアが優れているというのが最大のポイントではないかとかねがね思っている。“百姓が侍を雇ったら”という「七人の侍」、“ハイウェイで得体の知れぬトラックに追いかけられたら”という「激突!」、“鳥が突然人間を襲ったら”という「鳥」 etc... 後はそこからどんどんストーリーがふくらんで行く。本作は“もし家を作る時に、設計者と大工が対立したら”というワンアイデアのお話である(もっともこれは実際に家を建てた三谷の実体験に基づいているという)。そういう意味では前作も“もしドラマの出演者が勝手に暴走を始めたら”というワンアイデア作品ではあった。ただ現実にそんな事が起こる可能性は低い(ナマ放送ドラマなんていま時ありえない)だけに、多少話に無理が感じられた。しかし今回はいかにも現実に起こりそうで(実際三谷家で起きた)、それだけ話として説得力があり、大いに笑わされ、楽しめ、かつ身につまされた。“アーチスト”として現代アメリカ建築にこだわるインテリア・デザイナー(唐沢寿明)と、何十年もの経験と技術に裏打ちされた“職人”としてのプライドにこだわるガンコ一徹の大工(田中邦衛)。両者の間でなんとか円満に解決したいとアタフタする気のいい依頼人夫婦・・・。ストーリーを聞かなくてもこういうシチュエーションなら話が面白くなりそうだと誰でも思うし(ましてや稀代のドラマ作りの職人・三谷幸喜なら当然)、また観客は多分、この3者のどれかに自分をあてはめて楽しむ事もできるし、もし自分があの可哀相な依頼主の旦那(田中直樹)の立場に立たされたら、どっちの味方をすべきか・・・と想像してハラハラする事もできる。まことにこれはウェルメイド・コメディの傑作であった。また随所にカメオ出演(エンド・クレジットに名前もない)している有名人を見つけてニンマリする事もできる(バーのシーンで後方の客の中に和田誠サンがいました!)。こういうフトコロの深い良質エンタティンメントが次々と作られるなら、日本映画はもっと面白くなるはずである。三谷サン(と周防正行サンも)、もっと脚本だけでもいいからどんどん映画に参加してください。お願いしますよぉ。