山の郵便配達  (中国:フォ・ジェンチイ 監督)

 傑作です。泣けます。今のところ今年のベストワンです。絶対に見てください。おススメ。
 時代は'80年代初頭、山間の地域を歩いて郵便配達していた初老の男が寄る年波で引退し、息子に跡を継がせる。その最初の配達の旅(戻って来るまで3日間もかかる)に父が同行する。物語としてはただそれだけなのだが、この父と子の道行きで、それまで(仕事で忙しい為)あまり会話もしていなかった二人が心を開き合って行く、そのプロセスが丹念でうまい。道は険しく、ひどい所はロープを伝って登らなければならない。そうした道を歩いているうちに、息子は父の仕事の大変さと重要さを理解して行く。また単に配達するだけでなく、目の見えなくなった老婆に、遠くにいる孫の手紙を(実は何も書いていないのだが、祖母へのいたわりが書いてあるかのごとく創作して)読んであげたりもする。最後の旅と知って村中の人が見送ってくれたりもするが、これらの出来事を通じて息子は次第に父の偉大さを認識して行く。水が冷たい川を息子が父をおぶって渡る時、父は息子が小さい頃肩車してあげていた事を思い出し、
子の成長に涙を流すあたりはこちらも泣けます。そして何よりも、道中の緑に包まれた自然の描写が素晴らしい。その自然の中で貧しいけれどもたくましく、しかもおおらかで暖かい人情味を失わずに生きている中国の人たちの姿に心が打たれ、清々しい感動を覚えるのである。ふり返れば、戦後まだ日本中が貧しかった時代には、我々日本人にもここに描かれた人たちのような、心の豊かさとおおらかさがあったような気がする。物の豊かさと引き換えに、我々は本当に大切な、かけがえのないものを失ってしまったのではないか。そんな事まで考えさせられた、これは珠玉の傑作である。ちなみにこの作品、'99年中国金鶏賞(アカデミー賞に当る)の作品賞を、傑作「あの子を探して」を抑えて受賞している。
 ・・・忘れる所だったが、彼らに同行する、何故か“次男坊”という名のシェパード犬がなかなか利口で楽しい演技を見せてくれる。この犬の存在が、単調になりがちな物語の要所を引き締めているのもうまい作り方である。このワンちゃん、できるなら助演賞を差し上げたいくらいである。