メトロポリス  (東宝:りんたろう 監督)

 手塚治虫初期の傑作「メトロポリス」('49)のアニメ化。ただし原作の主人公ミッチィ(映画ではティマ)はボタン切替えで男にも女にもなれるし(高橋留美子の「らんま1/2」の元ネタ?(笑))、空も飛べるし十万馬力でビルもぶっ壊せるし学校にも通学して友達もいる・・・。つまりは(雌雄両性を除いて)この作品の2年後に登場した「鉄腕アトム」の原型とも言えるキャラクターである。本作ではそういった要素をことごとく排し、自分がどうして生まれて来たかも理解できず、追われて逃げまどい、運命に翻弄され、自分を助けてくれたケン一に一途な思いを抱く悲しいさだめの少女・・・という具合に原作を大幅に改変してある(脚本はあの大友克洋)。特に、原作に登場しないロックが、自分の養父であるレッド公が作らせたロボットであるティマに激しい憎悪を抱き、父に逆らってティマを殺すべく、執拗に追いかけるという展開はそれなりに面白いが、その動機がも一つ弱いように思えるし(レッドに倒錯的な愛を抱いているせいと言う声もあるが、なんだかねぇ)、ラストに至ってティマがコンピュータと合体して自分でも制御できないパワーを得て怪物に変身するあたりは、(その後の都市壊滅のカタストロフも含めて)ほとんど大友の「アキラ」に近い(配線が巻き付き、崩れた醜悪な顔もまさに「アキラ」だ!)。早い話、これは“大友克洋版「メトロポリス」”と言った方が判りやすいだろう。それに、手塚の丸っこい体型の登場人物が、CGで作られた無機質なデジタル描写の都市の風景の中で動き回るというのはどうも違和感がある(手塚の描く未来都市は全体に丸っこくてアナログ的な温かみが感じられるのだ)。そんなせいもあってかこの作品、どうも評判が悪いようである。でも確かに前述のような不満はあるが、原作の「発達しすぎた科学は人間を滅ぼしてしまうのではないか」というテーマは生かされているし、ハリウッド製SFアクションにも十分対抗できる壮大なスケールの日本製SFファンタジーとして、合格点は与えられるのではないかと思う。なんだかんだと言っても、“でももう一度見たい”と言ってる人は多いですからね。都市崩壊シーンにかぶって、レイ・チャールスの「愛さずにいられない」が流れるシーンも私は好きですね(これ、キューブリックの「博士の異常な愛情」のラスト、世界崩壊シーンに甘美なメロディの「また会いましょう」が流れるシーンへのオマージュと見ましたが、どうでしょうか?)。     

 蛇足です。エンド・クレジットを見てたら、原画スタッフの中にスゴい名前を見つけました。沖浦啓之(「人狼」!金田伊功(「アキラ」!)、平田敏夫(「ユニコ」=手塚原作)、そして川尻善昭・・・なんとゼイタクな・・・