走れ!イチロー  (東映:大森 一樹 監督)

 な、なんだこれは!…監督・大森一樹で、イチローに勇気付けられた人たちのハートウォーミング・ムービーと聞いて大いに期待したのに、まったくつまらないではないか!リストラされた大手ゼネコンのサラリーマンが、黙って家を出た妻を捜して神戸にやって来るというストーリーが一応メインとなっているが、この男、ウロウロするだけで結局なんにもしないのである。妻が家を出た理由はソフトボールのコーチを頼まれたという事なのだが、それだったら普通家族にことわるか置手紙くらいするだろうに。これだけでも脚本がザツいのが分かるが、その他の登場人物の物語も、ヘンな作家がヘンな女とくっついたり離れたり、球場のバイト学生が芝居小屋ともめたり、どれもこれもほとんどお話になっていない。イチローだってただ球場やテレビのモニターに写っているだけ。それらがとりとめもなくただダラダラと、かつ支離滅裂に進むだけ。最後に、何故かイチローに履かせるスパイクを作っている老人が倒れ、同じ日に日本を離れるイチローにスパイクを届けてくれと頼まれた主人公が、関西空港の中をチンタラ走ったあげく、結局間に合わず、でも家族とバッタリ会ってそれで終わり…。イチローにスパイクを履かせたい理由がどうでもいいような事で、しかも届ける役目は別に主人公でなくてもいいわけだからこのラストがさっぱり盛り上がらない。だいだいこの映画で落ち込んでいるのはソフトボール部の女子高生だけで、その理由が阪神大震災で友人を亡くしたから…という事なのだが、あれから6年も経って(!)まだクヨクヨしてる人間なんているのか?しかも主人公の中学生の娘が、彼女に突然大人顔負けの説教を始めるのだからシラけてしまう。イチローとも全然関係ないし。とにかくあまりのザツな展開、気のゆるんだ演出、中途半端なラスト、どれをとってもとても金を取って見せられない内容に唖然とするばかり。他の監督やスタッフならともかく、製作・黒澤満、脚本・丸山昇一という、かつて松田優作と組んで「処刑遊戯」「野獣死すべし」「ヨコハマBJブルース」などの秀作を送り出した名物コンビの作品であるだけに余計裏切られた思いである(しかもその優作の忘れ形見、龍平が出演しているのだよ!)。大森も最近はローバジェットの中途半端作品が多く、往時の精彩はない。いったいどうしてしまったのか。私が入った劇場の観客は私を入れて3人!(しかもあまりのつまらなさか、最後は私1人だけになってしまった)。こんな作品を作っていると、ますます日本映画に愛想をつかす人間が増える事になるぞ。関係者に猛反省を促したい。