連 弾  (松竹:竹中 直人 監督)

 竹中直人は、同じお笑い系出身映画監督として、北野武とはまったく違うアプローチを試みて見事に成功している(ちなみに、二人とも奥山和由のプロデュースで監督デビューした)。北野が同じパターンをただ繰り返しながらボルテージを落としているのに対し、竹中はマイペースで飄々としながら、確実に質の高い作品を連発している。これは凄いことだと思う(1本も駄作がないのである!)。今回は城戸賞を受賞した経塚丸雄のシナリオの映画化なのだが、見事に竹中印の映画になっている。
 妻が不倫し、怒った亭主が暴力をふるい、家庭はメチャクチャになる
…というストーリーを聞いたらえらく暗い映画かと思ってしまう(多分他の監督が撮ったら間違いなく陰々滅々とした典型的な?日本映画になるだろう)。ところが竹中の演出にかかると、なんともトボけた、あっけらかんとしてヘンな人間たちがドタバタする人間喜劇になってしまうのだから面白い。まさに竹中マジックである。亭主の竹中は主夫業をこなし、料理しながら即興の鼻歌を歌うし、妻(天海祐希)は勝気で亭主だろうが不倫相手だろうが悪態をつきまくり、しかし娘との連弾でピアノ大会に出る夢だけは捨てない(こちらも竹中作曲の「パワーをください」なる鼻歌を歌うシーンが傑作。天海は「狗神」とこれで今年の主演女優賞候補ナンバーワンになるだろう)。その他登場する人たちも、みんなどこかネジが欠けているようで、しかしなんとなく人間臭さというか暖かさを持ち合わせている。最後のピアノ大会で、母子はしっかり手をつなぎ、それを亭主と息子が観客席から見つめている、そのシーンに、人間とはみんなもろいけれども、でもどこかで心が繋がっているのだという竹中の思いが込められている気がする。見終わって心が温かくなる、気持ちのいい佳作である。塚本晋也、松岡錠司ら、映画監督仲間のカメオ出演も楽しい。