花様年華  (香港:ウォン・カーウァイ 監督)

 ウォン・カーウァイは「恋する惑星」で、スタイリッシュかつポップな感性溢れる演出で一躍人気者になったが、前作「ブェノスアイレス」では二人の男たちが流れ、さすらう物語を、かなり抑制の効いた演出でじっくり描くようになった。そして本作ではふとした事から出会った、互いに配偶者を持つ男女のいわゆる不倫と逃避行を、さらに落ち着いた、むしろ文学的とも形容したい格調高い演出を見せるまでになった(トレードマークだった手持ち撮影もコマ落しもなくなった)。無論かつてのスタイリッシュな演出が全く影をひそめたわけではなく、ヒロイン、マギー・チャンが着るカラフルなチャイナ・ドレスが登場する度に色が変わっているといった具合に、視覚的な面白さは健在である。しかしやはり演出は大人になった(従来が子供っぽいという意味ではない)。私がむしろ感じたのは、わが成瀬巳喜男の秀作「浮雲」(55)との類似性で、不倫の男女(森雅之と高峰秀子)が別れられずにズルズル関係を続け、最後は南の果ての島まで流れ流れて堕ちて行くというストーリーがよく似ていると思う(こちらはタイのバンコクまで流れて行く)。カーウァイは香港の成瀬巳喜男になるのだろうか?今後彼がどういうスタイルを築いて行くかさらに楽しみである。劇中、ナット・キング・コールの歌う「キサス・キサス・キサス」が効果的に使われ、耳に残る。