スターリングラード  (ジャン・ジャック・アノー 監督)

 第二次大戦の激戦地だったスターリングラードを舞台にした戦争映画である。冒頭の船での上陸シーンにおける凄惨な戦闘描写は「プライベート・ライアン」を思わせる凄さである。ドイツ軍陣地への突入作戦でも機銃掃射で兵士がバタバタ倒れて行く。凄いのは戦闘不利とみて退却する兵士たちを「敵前逃亡する奴は許さん」と味方の上官が射殺を命ずるシーンで、戦争というものの愚かさを実感させられる。
 ところが、やがて射撃の腕を見込まれた主人公(ジュード・ロウ)が狙撃手としてドイツ兵をどんどん射殺して有名になって行き、その彼を倒すべくドイツの凄腕スナイパー(エド・ハリス)が派遣され、両者が男の意地と誇りをかけて対決して行くあたりになるとあれあれと思ってしまう。ロウの扮したスナイパー、ザイツェフは実在の人物だそうだが、両者の虚々実々の対決シーンは戦争実話と言うより「ゴルゴ13」のエピソードかと思ってしまうし、お話としてはこれも一流のスナイパーが凄腕のベテラン・スナイパーと対決するという加山雄三・森雅之・浅丘ルリ子主演の東宝映画「狙撃」にそっくりだし、はたまた「NO1は誰だ」と叫ぶ殺し屋同士の対決を描いた鈴木清順監督「殺しの烙印」を思い出してしまうほど、なんだか殺し屋アクション映画を見ている気分にさせられてしまったのである(ガラスの反射を使って反撃するあたりもほとんど「殺しの烙印」のノリである)。それよりも、出だしでは戦争の悲惨さを描いていたはずなのに、後半では次々と敵兵をゲームの的のように射殺したり、スナイパー同士の戦闘のかけ引きも含めてまるでTVゲームを見ているような気分にさせられるし、結局一番人を殺した主人公が英雄となってしまう結末には困ってしまうのである。荒唐無稽なスパイ・アクションならそれでもいいが、なまじ実話風であるだけに余計始末が悪い。主人公とヒロイン(レイチェル・ワイズ)、宣伝将校(ジョセフ・ファインズ)の三角関係の悲恋も丁寧に描かれ、それなりに見応えがあるだけに、なおさらこのシークェンスに違和感を覚えてしまう。アノー監督は好きな監督だが、これはちょっと首をかしげざるを得ない問題作である。