バンパイアハンターD  (日本ヘラルド:川尻 善昭 監督)

 お待たせ!実に8年ぶりの川尻善昭監督の劇場公開作品である。別項の監督論にも書いたが、川尻善昭は我が国有数のアクション・エンタティンメント作家であり、彼の監督作品は見た人の間ではかなり高い評価を得ているのだが、いかんせんほとんどの作品がオリジナル・ビデオであり、わずかの劇場公開作品も、ほんの短期間わずかの劇場でしか公開されて来なかった為、実力の割にメジャーな人気を得るまでに至らなかった。'93年の「獣兵衛忍風帖」もチャンバラ映画の大傑作であるにもかかわらず、多分劇場で見た人はほんのわずかだっただろう。今回の新作は昨年2月のゆうばりファンタで上映され、好評を博したが、一般劇場公開までにさらに1年以上もかかっており、やきもきしていたがようやくワーナー・マイカル・チェーンにおいてロードショー公開される運びとなった(考えれば、川尻作品が多数の劇場できちんとロードショー公開されたのは今回が始めてではないだろうか?!)。そして作品の出来栄えはと言えば、これが実に見事なアクションの快作であり、関連掲示板を覗いてもかなり評価が高い。ファンとしては長い間待たされたかいがあったと言うものである。アクション映画ファンの方、多少遠くても是非ワーナー・マイカルまで足を運ぶべし。
 原作は川尻監督作品「妖獣都市」などで知られる菊地秀行。天野喜孝によるイラストも有名で、以前にオリジナル・ビデオでもアニメ化されている。お話は、吸血鬼マイエル・リンクに誘拐された令嬢を救出する為に雇われた吸血鬼ハンターのDが、同業のマーカス5人兄弟たちと競いながら救出作戦を展開するというものだが、脚本・絵コンテも担当した川尻演出はいつもながらスピーディかつダイナミックで、アクション・シークェンスはハリウッドSFXアクションにも負けない迫力である。特に敵側の用心棒の妖怪たち(?)のキャラクターや妖術の数々は、前作「獣兵衛忍風帖」に登場した怪忍者たちを思い起こさせニヤリとさせられる。そう思えば主人公の賞金稼ぎという設定は西部劇でもおなじみだし(Dの衣装は「続・荒野の用心棒」のフランコ・ネロを連想させる。にしても遥か未来なのに何故か西部劇風サルーンが登場するシーンには笑った)、マーカス兄弟の装甲車は「マッドマックス2」に出てきたようなデザインだし、Dの持つ刀は日本刀みたいでこれを使ったチャンバラ・アクションもあるし(川尻監督は工藤栄一の大ファンである!)、ホラー要素あり魔界ファンタジー的アクションもありと実にいろんな活劇エンタティンメントのエッセンスがてんこ盛り、ラストはなんと!SFになってしまうのには唖然。しかしトータルとして描かれるのは、“命をかけた至上の愛”である。またマーカス一味の紅一点のヒロインと主人公とのストイックな感情の交流(これも前作の獣兵衛と女忍者とのラブシーンの焼き直しだ)も丹念に描かれているように、これはまたさまざまな“愛”の物語でもあるのだ。ラストシーンの主人公の深い孤独にはジーンときてしまう。まさにこれは本年屈指のエンタティンメントの快作である。8年のブランクをまったく感じさせない川尻監督の復活に心からエールを送りたい。宮崎駿や押井守だけでなく、川尻善昭にも映画ファンは是非注目していただきたい。なお本作のプロデューサーはあの「太陽を盗んだ男」「ゴルゴ13」「MISHIMA」などを製作したマタ・ヤマモトこと山本又一朗である。