サトラレ  東宝:本広 克行 監督)

 ズバリ言います。これは泣けます。ハンカチ用意しておいてください。
 お話は、自分の心で思った事が他人に伝わってしまうという特殊能力を持った人間をめぐっての、政府機関や周囲の人間を巻き込んでのてんやわんやを描いたコメディ・・・のはずなのだが、後半は意外にも主人公の純粋でひたむきな行為に、彼の周囲の人間たちも、そして観客までもが感動し、涙を誘われる。この辺、本広演出はこれでもかと泣かせまくる。多少あざといくらいで、これに反撥する否定的な感想も聞かれるが、やはりそれを救うのが主人公安藤政信の好演で、彼のピュアなまなざしと演技には私も泣いてしまった。安藤なくしてはこの映画は成功しなかったのではないか。本広克行は前作「スペース・トラベラーズ」でも前半はコメディ調、ラストは突然愁嘆場になるというアンバランスな構成で失敗したが、本作は初めからファンタジーでありメルヘンである点が強調されているから奇妙な設定にも違和感がなく、笑わせながらも、どことなくおかしな政府機関や周囲の人間たちをシニカルに見つめる視点がしっかりしており、“人間みんなが隠し事をしたり欺瞞や打算にまみれているこの時代に、自分の心をすべてさらけ出す「サトラレ」こそが本当に人間らしい存在ではないか”というテーマが胸を打つのである。政府の策略で、周囲の人間が彼の前ではみんな演技をして、本人だけが知らないという設定はジム・キャリー主演の「トゥルーマン・ショー」とも似ており、テーマも共通するものがあるような気がする。脚本はあの傑作「メッセンジャー」の戸田山雅司。そう思えば、中盤、鈴木京香が突然車を追いかけて走り出すあたりの高揚感は「メッセンジャー」で飯島直子がジャージを脱ぎ捨ててバスを追いかけるシーンのおさらいのようでもある。あるいは、政府のエージェント役の小木茂光が、前半冷徹で人間味がないように見せておいて、後半いい所で主人公の味方に転じるあたりが、やはり同じような役どころを演じた「メッセンジャー」の太田役を彷彿とさせ、いろんな所で「メッセンジャー」との共通点を見てしまう(のは私だけでしょうか)。ともかく、前作の失点を大いに挽回した本広克行のこれは会心作である。