EUREKA<ユリイカ> (サンセントシネマワークス:青山 真治 監督)

 上映時間3時間37分!・・・これを聞いてあまり映画を見ない人はおっくうになってしまうだろう(特に私のようにトシをとって長時間鑑賞すると尻の痛くなってくる人は)。しかし映画を見て、その心配は吹っ飛んだ。一旦映画に引き込まれたら、最後の一瞬まで目が離せない。3時間37分があっと言う間に過ぎるのである。これは凄いことである。本年度屈指の力作である。1年に1本しか映画を見ない人がいるなら、是非ともこの映画だけは見て欲しい。
 冒頭、バスジャック事件が起きる。しかも舞台は九州で、バス会社は西鉄である…。誰もが昨年の少年によるバスジャック事件を思い起こすだろうが、映画が企画されたのは事件よりずっと以前である。しかも「なぜ人を殺してはいけないのか」と問う少年まで登場する。まさに時代を先取りし、時代を映す鏡のような作品なのである(古い例えだが、大島渚流に言うなら「予感の映画」であろう)。この事件で心に深い傷を負ってしまった、事件の生き残りの3人(役所広司扮するバス運転手と10代半ばの兄妹)が、自分自身を取り戻す為に悩み、苦闘し、放浪の旅の中にその答を探し求めるというのがそのストーリー。事件以後、兄妹は父も母も失い、町はずれの家で誰にも頼らず、一切言葉を発せずに生活しており、役所扮する沢井もまた家族からも疎外され、警察からも不信の目で見られ、自分の殻に閉じこもるようになって行く。この3人がいつしか共同生活を始め、やがて“何か”を発見する為にマイクロバスを購入し、あてのない旅に出て行く。その間、彼らの周りで連続通り魔殺人事件が起き、その犯人は誰なのかというミステリアスな要素も含んでラスト、感動的な“発見”(=EUREKA)に至り、ここでやっとタイトルが現れて映画は終わる。

 彼らが何を発見したのかは映画は描かない。それは観客自身で確かめて欲しいというのが監督の狙いだろう。20世紀末を越えて、少年犯罪や、あるいは心の歪んだ悲しい事件が続出する現在、人間は何を間違えたのか、どこへ行こうとしているのか…。その答はすべての人間で探し求め、発見すべきものだろう。ラストの阿蘇山・大観峰を空から捉えたシーンでそれまでのモノクロ画面が初めてカラーとなる、ここは宗教的な感動すら覚えてしまう。見終わってズッシリと心に響き、しかし何か心が洗われるものがある、本年度の映画ベストワンを総ナメするであろう傑作である。見るべし!