狗 神(イヌガミ)  東宝:原田 眞人 監督)

 前作「金融腐蝕列島[呪縛]」で証明されたように、原田眞人監督は今や我が国で最も力量のある一流監督である。今回は毎年恒例の冬の角川ホラー映画を手掛けたわけだが、さすが原田監督、凡百のホラー監督とは段違いの達者な演出ぶりで風格のあるゴシック・ホラーの快作に仕上げた。冒頭の空撮からして快調、美術も手抜きがなく(和紙の紙漉道具など、てっきり本物を借りているのかと思ったら、これ苦心のセットだというからすごい!)、奥行きのある構図や照明効果も計算され尽くしている。ホラーではあるが、コケ脅かしのショック演出を排して、古い因習が支配する閉鎖的地域社会における悲劇のドラマを重厚に演出する事によって、人間ドラマとしても奥行きの深い作品に仕上がっている。ラストのクライマックスなど、ギリシャ悲劇のような格調高さがある(近親相姦や父親殺しなどのエピソードから、私はパソリーニの「アポロンの地獄」を連想した)。その分、「リング」的なホラーを期待した若い観客には不満だろうが、たまにはこうした本物の人間ドラマにも触れて鑑賞眼を養うべきだろう。