BROTHER  日=英/松竹:北野 武 監督)

 北野武監督の久々バイオレンス・アクション(純粋のバイオレンスは「ソナチネ」以来)。で、大いに期待したのだが・・・。部分的には、冒頭の寡黙なロス到着シーンや即物的な銃乱射シーン、海岸での遊戯シーンなど、これまでの北野作品にも登場したような印象的なシーンはあるが、トータルな作品として見るとどうもまとまりに欠ける。夜の駐車場での対決シーンやラストの主人公の死のシーンのように、間接的な死の描写があるかと思えば、血が噴出する直接的な暴力描写があったりと一貫性がないし、その使い分けに意味があるようにも見えない。指詰めや大杉漣の切腹シーンなどまるで陳腐で、ほとんど外人向けのサービスのように見えて彼のスタイリッシュな演出とは水と油である。一番問題なのは、主人公がアメリカに渡ったのは、死に場所を求めてなのか、一旗上げてアメリカで成功しようとしたのか、その目的が中途半端な点である。(以下ネタバレがあります。見たい方は下の部分を反転させてください)

仲間を増やし、次々と暴力で勢力を拡大して行くあたりは後者のように見えるが、ラスト間際に至ってはほとんど戦略も計画性もなくて仲間が次々死んで行くのをなすすべもなく見守り、ラストは敵のボスをワザと逃がして自殺的な死に様を見せるあたりは前者そのものである。それなら自分一人で敵に殴り込みゃいいのに、それだけの為に弟を含めどれだけ多くの人間が死んで行ったことか(寺島進の自殺は犬死じゃないか!)。オマー・エプスに全財産をくれてやったくらいでとても埋め合わせられるものではない。

 私は以前から、「HANA−BI」あたりから北野武作品は急速にボルテージが落ちて来ていると指摘していたのだが、今回もやはり脚本も演出のキレも以前より落ちていると言わざるを得ない。「ソナチネ」の、氷のように研ぎ澄まされた演出感覚はどこへ行ってしまったのだろうか。