ダンサー・イン・ザ・ダーク  (松竹:ラース・フォン・トリアー 監督)

 く、暗い・・・。なんとも暗くてうっとうしくなる映画である。貧乏で、親子とも遺伝性の目の病気で、息子の目だけでも治そうとせっかく貯めた金は盗まれるわ、取り返しに行ってはずみで相手を死なせて、最後は絞首刑になるわとほとんど不幸と不運のオンパレード。これをシリアスに演出されたらとても見る気がしなくなる。・・・のだが、これを“ミュージカル”にするという発想は常人には思いつかない。このミュージカル・シーンはデジタルカメラによって思いっきり非現実的な色調でステージ・ミュージカル風に演出されており、現実のシーンとはまるで別の映画かと錯覚する。これらのシーンは主人公ビョークの空想と言うか想念の世界として描かれているのだが、それにしてもこれから死刑台に向うというのに歌い踊っている余裕があるのかとつっこみたくなる。一つの実験的な作品としての価値はあるが、個人的にはミュージカルはやはり夢と希望に溢れたハッピーなものであって欲しいと思う。「ウエスト・サイド物語」や「ジーザス・クライスト・スーパースター」のようにアンハッピーなものもあるが、それでも見終わってほのぼのとした気分にはなった。悪く言うならこれはミュージカルの邪道ではないかと思う。そんなわけで私にとっては後味の悪い作品でした。ただビョークの張りのある歌声はやはり素晴らしい。次回は口直しに彼女主演のもっとハッピーで楽しいミュージカルを見たいものである。もっとも彼女、映画はこれっきりと言っているようですが。