天国までの百マイル  日活:早川 喜貴 監督)

 浅田次郎の原作を読んで、いつもながらポロポロ泣いてしまった私としてはかねてから映画化を待ち望んでいただけに(別項読書評参照)待ちきれずに初日に劇場(梅田に新規オープンしたシネ・リーブル)に駆けつけたのである。そして予想通り、爽やかな感動作に仕上がっており、気持ち良く泣けた。観客の入りもまずまずで喜ばしい事である。
 バブル崩壊で多額の借金を抱え、自己破産して妻子にも去られ、友人の会社に雇われるが、仕事そっちのけで公園のベンチでゴロ寝
するやる気のない毎日・・・。まさに絵に描いたような主人公(時任三郎)のトコトンどん底の日常が描かれる。そんなある日、彼の母が倒れ、治る見込みもほとんどなく、彼の兄弟たちは冷たくて見舞いにも来ない。しかし主治医から、千葉に凄く腕のたつ伝説の外科医がおり、その医者なら母の命を救えるかも知れないと聞いた主人公は、自らの再生も賭けて千葉・鴨川まで母を運ぶ百マイルの旅を敢行することとなる・・・。この後半は、薄情な人間ばかり登場する前半とうって変わって次々とウソのような善意の人間ばかりが登場するので、人によっては非現実的でリアリティがないと批判が出るかも知れない。しかし原作者の浅田はそんな事は百も承知で、後半のドラマをファンタジーもしくは現代のメルヘンとして押し通すのである。映画では出てこないが、原作ではこの伝説の外科医は心臓バイパス手術を年間150例!もこなし全部成功しているという、まるで手塚治虫のブラックジャックみたいな人物として描かれる。彼を愛するホステス、マリ(大竹しのぶ。好演)は彼の幸せを望み別れた妻に彼を返して身を引くという、現代にはまずいないまさに聖母マリアのような存在である。愛しているからこそ、彼が一番幸せになることが喜びであると訥々と電話で語る場面は一番感動するシーンで、やっぱりここで泣けます。ただ百マイルの旅がたいしたトラブルもなく意外にあっけなく終わるのと、エンディングにテーマとなっているピーター、ポール&マリーの「500マイル」が流れなかったのがそれぞれ物足りない気がしたが、全体的には原作をうまくまとめたベテラン、田中陽造の脚本が見事で、新人早川喜貴の演出もまずまず、厳しい製作条件の中では頑張った方であり、チームオクヤマとしても昨年の「地雷を踏んだらサヨウナラ」に続き爽やかな力作を連発してその存在をアピールしたという所だろう。しかし年に1本づつというのは少なすぎる(それもミニシアター作品ばかり)。奥山プロデューサーにはもう少し製作費をかけたエンタティンメントの快作をどんどん連発して、もう一度日本映画界に風穴を開けて欲しいと切に望みたい。