本日またまた休診なり    (:山城 新伍 監督)

 山城新伍の書いた自伝的エッセイ「現代河原乞食考」(解放出版社刊)の中にちょこっと出てくる、京都西陣で医者をやっていた山城の父親の後半生を、山城自身の監督・主演で映画化したもの。本にも書かれていたが、この父親が実に型破りでユニークでおかしくて、しかし素晴らしい人物である。映画化したくなるのもよく分かる。なにしろ貧乏人からは金を取らず、夜中でも病人が出れば診察するという赤ひげみたいな人物で、そのくせ芝居と浄瑠璃が好きで、素人芝居に出演中に急病人の連絡を受け、こうもり安の扮装のまま自転車で街中を走ったり、治療代を取らない代わりに病室で浄瑠璃をうなって聞かせる(まるで落語の「寝床」ですな)といった具合である。そうした人物にあきれながらも忠実に従う妻(松坂慶子)や、父に共感して行く息子(これが後の山城)、彼を慕いいつもやって来るヤクザやヤミ屋などのおかしな人間たちを群集ドラマとして手堅くまとめた演出は悪くない。主人公が病死するラストの愁嘆場はやや芝居がかり過ぎるのが少々難ではあるが・・・。残念なのは山城自身が自作自演している為か、ただこの人物の行動をフラットに追っただけに終わっているのが惜しい。戦後史や医療の貧困や、本人の内面の苦悩などを重層的に描けばもっと面白くなったのではないか。