ホワイトアウト (東宝:若松 節朗 監督)

 原作は'95年度「このミステリーがすごい」等のベストワンを総ナメにした傑作である。日本版「ダイハード」とも言われ、映画化が待たれていたが、今までこれほどのスケール感ある冒険エンタティンメントを作り慣れていない日本映画界(なにしろ船戸与一や佐々木譲、夢枕獏あたりの冒険小説をまったく映画化しようとしないのだから)ではムリじゃないかなと思っていたところ。なんとか映画化出来ただけでもよしとしたい気分ではあるし、国産エンタティンメントとしてはよく頑張っていて、まあまあ水準以上の出来だとは思う。
 しかし、しかしである。ここまで出来たなら、もう少しで
さらに素晴らしいエンタティンメントの傑作になるはずなのに、実に惜しい点がいくつかある。以下それを挙げてみる。
 まず何と言っても、サスペンス・アクションとしてのテンポがゆるい。個々のアクション・シーンではいいシーンがいくつかあるが、それをつなぐ間のシーンに緊張感が乏しく、モタついているので著しくテンションがそがれるのである。特に最後の30分位は観客が疲れるくらいに一気呵成にアクションがたたみかけられなくてはならないのに(原作にない時限爆弾まで登場しているのだからなおさらである)宇津木と笠原との問答が入ったり、途中でヒロインにアノラックを掛けてやったり(そんなヒマないだろ!)といった具合でイライラして来る。ついでだが、たった20分間であれだけの行動が取れるとはとても思えない。次に、今やSFX技術も進歩して作れないシーンはないくらいになっているのに、必要なワンシーンがいくつか欠けている。
例えば最初にトンネルを爆破するシーン、ジープの後から土煙が追いかけてくるショットだけで爆破の瞬間がないから、観客は一瞬何が起こったのか分からない。これは不親切。そして放水路を通って脱出する富樫の後を放水された大量の水が追いかけて来るシーンの後、河原に横たわる富樫のシーンと続くが、ここでも放水路の出口からはじき出され、川に押し流される富樫の姿を追加すべきだろう。特に放水路と川の位置関係がまったく不明なのには困る。他にもダム内の敵と富樫の位置関係も分かりにくい。
 まだいくつかあるがこれくらいにして。総じて言える事は、監督には若手でもいいからアクション演出に手馴れた人材を持ってくるべきであった(アメリカでは「ダイハード2」や「U−571」といったビッグ・バジェット作品に、B級だがイキのいいアクションを撮っただけの新人レニー・ハーリンやジョナサン・モストウを起用してそれぞれ大成功を収めている。その例に倣うなら室賀厚か渡辺武あたりを起用するくらいの冒険が必要である)。テレビでは実績のある若松節朗
監督でも、映画はまるで違う。せめて「ダイハード」シリーズや「クリフハンガー」くらいは何十回も見て研究すべきだろう。人間ドラマはまずハイテンション・エンタティテンメントに仕上げてから考えるべきである。・・・といろいろ書いたけれども、ともかく興行も大ヒットしているようだし、これを機会に我が国冒険小説の傑作の映画化が続いてくれるなら、映画化の意義は十分あったと言えるだろう(例えば、福井晴敏の「亡国のイージス」は是非とも映画化して欲しい)。そういう意味を込めて、大まけして  )というポイントを与えましょう。