インサイダー (タッチストーン:マイケル・マン 監督)

 実話の映画化。タバコ会社を内部告発する映画なのだが、タバコ会社も告発者もすべて実名だという。この辺がアメリカ映画のスゴいところで、日本映画ならまず実名は無理だし(「金融腐食列島・呪縛」も実名であればもっと迫力が出ただろう)、仮名でもこうした題材を映画化する勇気のある映画会社はまずないだろう(早い話、ドキュメンタリーは別として、現代の公害、薬害問題を映画化しようという企画はまったく起きていない)。本作も、マイケル・マン監督のどっしりと風格のある演出が冴え、見応えがある。アル・パチーノも好演だが、告発者を演ずるラッセル・クロウが実にいい。告発したものの、家族を思って心が迷い、揺れる複雑な人間心理を巧みに表現している。クロウの好演によってドラマはグンと引き締まった。力作である。