カリスマ (日活:黒沢 清 監督)

 「CURE」で自己のスタイルを確立した黒沢清が、さらに不思議な亜空間ファンタジーを作り上げた。人質を救えなかった事から現実世界に嫌気がさし、逃避して来た主人公の刑事が不思議な森に迷い込み、1本の木をめぐっての争いに巻き込まれて行く。“NEOホラー”などと配給会社側はホラーブームに便乗した宣伝をしているが、どう見てもこれはホラーではない。まあ強いて言えば“守るべきは何なのか(対象は人質、木、森、そして共同体とめまぐるしく変わる)”について延々と議論が展開される哲学映画という事になろう。はっきり言って分りにくいが、それでも最後まで目を離せない妖しい魅力に満ちた作品である。ラストも衝撃的。世紀末にふさわしい問題作である。30年前なら間違いなくアート・シアターにかけられた作品と言えば分かり易いだろう。