どら平太  (日活:市川 崑 監督)

 実に!最初に企画されてから(昭和44年)31年ぶりの映画化である。当時、黒澤明、木下恵介、小林正樹、市川崑という日本映画界最高の監督たちが4人で1本の映画を作ろうという事になり、この作品が選ばれたのだが、4人合作の脚本の調整がうまく行かずにボツになり、その後も何度か企画されながら実現しなかったいわくつきの作品である。しかし考えたらこれだけ個性的な監督たちが4人がかりで演出したって、オムニバスならともかく、1本の映画として繋がったかどうか疑問であるましてや4人とも作品タッチはみんな全く違うのである!)。市川以外の3人が亡くなり、市川自身も84歳(!)になった現在今は絶好のタイミングである。そして映画はその年齢をほとんど感じさせない、久しぶりに“愉快!痛快!豪快!”のコピー通りの時代劇の快作が出来上がった。山本周五郎の原作もなかなか面白くて、最後の50人相手のチャンバラシーンを除いてほぼ原作に忠実な脚本である。それに、小藩を舞台に腕の立つ豪快な主人公、私服を肥やす重臣、血気にはやる若侍たち…というパターンは同じ山本周五郎原作の黒澤作品「椿三十郎」ともよく似ており、ついでに主人公の敵をも上回る悪知恵(菅原文太の悪役が「お奉行の悪企みは俺たち以上だ」と舌を巻く。「椿三十郎」でも仲代達矢が「貴様のようなヒドい奴は初めてだ」とあきれるのだ!)もまたそっくりなのが面白い。しかし「三十郎」ではもの凄い数の人間を殺し、ラストでは盛大に血しぶきを吹き上げたのに対し、こちらの主人公は1人も殺さないし血もほとんど流れない…と対照的なのもまた面白い(50人との斬り合いはすべて峯打ちである)。黒澤が60歳を超えてからは痛快時代劇を作らなくなり、アクションも精気に乏しくなったのに比べ、市川崑はテンポもアクションも84歳とは思えない元気さである。そしてとぼけたユーモア…。娯楽映画とは何かを知り尽くした超ベテランの健在ぶりを称え、点数も)と大甘で奮発しよう。