スペース・トラベラーズ (東映:本広 克行 監督)

 大ヒットした「踊る大捜査線」の本広克行監督、待望の新作。今回は銀行強盗犯が人質を取って立てこもった銀行内において、人質と犯人とが奇妙な連帯感で結ばれて行くというストーリー。前半はドタバタコメディ・タッチで悪くはないが、ラストで急にシリアスになってしまうのは問題あり。いったい監督はこの映画をコメディにしたかったのか、現実は甘くないという悲劇にしたかったのか、その位置付けが中途半端なのが困る。だいたいまだ閉店していないうちから大半の行員が別室でパーティの準備をしているという出だしからしていいかげんで(私も金融機関勤務だから知っているが、3時前後は一番忙しい時で、そうでなくてもリストラで人が減っており、田舎の農協ならともかく、いまどきあんなノンビリやってたらとっくに破綻してつぶれている)、他にも女子行員(深津絵里)は犯人の自動小銃を奪って乱射するわ(こんなドジな犯人がいるか!)、世界中を飛び回る傭兵の男が紛れ込むわ、犯人も人質もアニメの主人公になりきってしまうわとほとんど現実離れしたシチュエーションだらけ。どう考えたってこれはほとんどデタラメなドタバタコメディである。デタラメならデタラメでよい。そのトーンを最後まで引っ張って行けばそれはそれで最近の日本映画には珍しいナンセンス・コメディの快作になったかも知れない。なのにラストは突然一人が狙撃され、残る二人もブッチとサンダンスのように銃を構えて飛び出しストップ・モーションとは、あまりにパセティックかつリアルに過ぎないか。前半のタッチを踏襲するなら、傭兵の男(渡辺謙)が銀行を要塞にしてしまうくらいの過激さが必要だし、ラストは例えば途中で脱出した渡辺が、3人組が危機一髪の時に救出に戻って来るというハン・ソロなみの見せ場も用意してまんまと脱出し、写真にあった南の島で全員楽しんでいるというハッピーなオチがあった方がエンタティンメントとしては正解なのではないだろうか。もしどうしてもああいうラストに持って行くなら、前半も本作が参考とした「狼たちの午後」(シドニー・ルメット監督の傑作)ばりにリアルに描くべきだろう。あちこちに楽しめるアイテムが散りばめられているといういつもながらの演出は悪くないだけに、あのラストにはどうもしっくりこない。アンバランスな失敗作である。公式ホームページ(http://www.space-travelers.com)を覗くとほぼ誉める声が圧倒的だが、単に面白かったとしか書いてなかったり、金城武や安藤政信がカッコいいだのカワイイだのと他愛無い意見ばかりでガッカリする。若い人たちはその程度でも満足だろうが私はそれではダメだと思う。きちんと本質を捕らえなければ本当に日本映画が面白くなったとは言えないのではないだろうか。