忍者秘帖/梟の城 (ビデオ)(東映:工藤 栄一 監督)

 篠田正浩の新作はガッカリする出来だったが、その上映に合わせて同じ司馬遼太郎原作の最初の映画化作品がビデオで再発売された。37年も前の作品だが、こちらの方がずっと面白かった。なんせこの映画が公開された当時は忍者映画が大ブームで、(テレビの「隠密剣士」に大映「忍びの者」東映の山田風太郎忍法帖もの等々)その影響を受け、この映画の中でも四方手裏剣が飛んだり、敵の屋敷に忍び込むのに雨戸に丸く穴を開けたり、敷居に水を垂らして音を消したり、忍者が死ぬ時は火薬で顔を潰す…など、当時の忍者映画の常識であったシーンやアイテムがちゃんと盛り込まれていてそれらを思い出してはウムウムとうなずく私なのでありました。篠田作品にこれらの要素がまるで登場していないのは勉強不足である。で、工藤版は原作を思い切って改変して、葛篭重蔵への秀吉暗殺命令には裏に隠された謀略があったとし、それを重蔵が早々と見破るという展開となる。木さる(なつかしや、本間千代子!私、ファンでありました)が最後まで生き残るのも原作と異なる。彼女の天真爛漫な生と愛を対極に置く事によって重蔵が忍者の世界のむなしさを悟るという展開は原作よりも無理がない。風間五平が石川五右衛門にされてしまうくだりをばっさりカットしているのも正解(篠田版ではさっぱり意味不明)。原作を巧妙に整理し、無駄なくまとめたこの映画の脚本家は池田一朗…と言っても知らない人も多いだろうが、「陽のあたる坂道」「あいつと私」を始めとする石原裕次郎作品など、日活を中心に活躍し、後年は小説家に転進し“隆慶一郎”の名で「影武者・徳川家康」「吉原御免状」等の時代小説の第一人者として活躍した、あの人である。脚色が見事であるのは当然である。