黒い家  (松竹:森田芳光 監督)

 原作はスゴく怖いのだが、この映画終盤まではほとんど怖くなかった。原作では不気味な菰田の亭主を西村雅彦が演じているせいもあるし、題名となっている「黒い家」が畑の横にある普通の家で少しも気味悪くない。何よりこれまでおとなしく薄幸の役柄(「青春の門」から「鉄道員(ぽっぽや)」まで)が多かった大竹しのぶが狂的な殺人者を演じるのには、熱演してるとは言えイメージが湧かない。しかし前半そのように怖さを取り去っている分だけ、ラストの対決は迫力があった。森田の狙いは全体をホラーにする事よりも、表面おとなしそうな人間が、いざ狂ったらどれだけ怖いかという所にあったのではないか。「リング」の中田秀夫がこれを撮ったらまた別のホラー映画になったかも知れない。