地 獄   (石井プロ:石井輝男監督)

  これはとんでもない作品である!。なにしろ宮崎勤やオウムの麻原、上祐らを地獄に送ってお仕置き(火あぶり、舌抜き、皮剥ぎ等々)してしまうという、まさにただそれだけ!の映画なのである。それをさらに大芝居がかった俳優の演技、チープなセットにチャチい特撮によって描いているのである。多分若い観客は「なんてくだらん三流映画だ」とあきれることだろうが、それが鬼才石井輝男監督の狙いであろうことは、その昔“新東宝”映画を見ていた人なら分かるはずである。そう、この映画は今はなき新東宝映画への限りなきオマージュであり、その再現なのである。
 まず何より、巻頭の石井プロダクションの会社マークそのものが、当時の新東宝映画のマーク(横長楕円形)そっくり。石井輝男監督自身が、新東宝でデビューし、育った監督であるが、プロデューサーも新東宝で活躍し、現在もピンク映画を撮りつづけている小林悟、出演も新東宝出身の若杉英二、丹波哲郎、それに、あの伝説の前田通子(日本映画史上最初のオールヌード女優。会社とのトラブルが元で昭和32年、日本映画界から姿を消した。)が閻魔大王(いや、大女王と言うべきか)に扮して何と42年ぶりにスクリーン復帰といった具合。そして新東宝末期に、中川信夫監督により「地獄」という題名の作品が作られているが、これは今や同監督の「東海道四谷怪談」と並んでカルト的傑作として評価されている(ちなみにそちらで閻魔大王を演じたのが後に「網走番外地」を始めとする石井作品の常連であった嵐寛寿郎というのも奇しき因縁である)。そんなわけで、この作品の全体的なトーンもチャチに見えるのを承知で(実際に予算がなかったのだろうが、それを逆手にとって)当時の新東宝作品の怪しげで、猥雑できわ物的な作風を見事に再現していると言っていいだろう。あの頃、青少年たちを悩殺した前田通子がやさしそうなお婆さん(閻魔の娑婆での仮の姿)になっていたのも感銘深いが、霊界の案内人こと丹波哲郎がラストに、本筋とは全く関係なく、石井作品「忘八武士道」の主役、人斬り死能そのままの役で登場し、地獄の鬼たちを斬りまくるのには大笑いした(石井映画を見続けていなければこの面白さは分からないだろう)。本筋の方では、あの麻原(これがソックリ!)を、そこまでやるかと思えるほど徹底的にスケベで下品で汚らしいヒヒ親父としてコテンパンに叩きのめしているのが痛快である。まったく石井輝男
以外に誰がここまでやるだろうか。おそらくこの作品は'90年代最後のカルト映画として記憶されるに違いない。ついでながら、いかがわしさ満点のポスターもきっと将来コレクターから引っ張りだこになるだろう。        

  
(付記)「地獄」に関するホームページも続々登場している。興味のある方は覗いてみては如何?
     → http://www04.u-page.so-net.ne.jp/xb3/t-shimo/jigoku/
               http://www.nifty.ne.jp/jigoku/