第3回 「暗黒映画<フィルム・ノワール>傑作選」

 
開催日: 1974年11月16日(土)

場所: シギノ大劇

上映開始: PM 10:30

テーマ: フィルム・ノワールの語源はフランス映画。「暗黒映画」とはその和訳で、裏社会に生きるギャング、犯罪者を主人公にした作品群である。が、ジャンルは幅広く、前回の“殺し屋”映画も広い意味でのフィルム・ノワールである。今回はシネマ自由区メンバーが厳選した、和製フィルム・ノワールの秀作を取り上げた。あまり知られていないが、映画ファンなら見れば納得の埋もれた秀作も含まれている。

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(作品紹介)

 暗黒街の顔役

 製作:東宝 
 封切日:1959.01.15 上映時間:101分  カラー/東宝スコープ 
 監督:岡本喜八 
 脚本:西亀元貞、関沢新一 
 音楽:伊福部昭
 出演者:鶴田浩二、宝田明、草笛光子、三船敏郎、白川由美、平田昭彦、佐藤充、ミッキー・カーティス、天本英世 

なんとまあ、初回から3回連続して岡本喜八作品登場。それくらい岡本喜八は当シネマ自由区とは肌が合う。この後も岡本喜八監督特集があるのでお楽しみに。
さて今回は、「結婚のすべて」でデビュー以来3本目にして、岡本監督がはじめて取り組んだアクション映画である。プロデューサーはこれが岡本監督と初顔合わせにして、以後愚連隊、暗黒街両シリーズや、「ああ爆弾」「殺人狂時代」等の怪作までも引き受ける事となる田中友幸。そして佐藤允、ミッキー・カーティスが岡本映画に欠かせぬ顔として定着し、三船敏郎も初参加する等、岡本喜八ワールドは、まさにこの作品から始まったと言って過言ではない。そして、本作を足掛かりとして同年、あの「独立愚連隊」が登場する事となる。喜八アクションのトレードマークと言える速いカット割り、日本映画らしからぬ、スマートでカラッとしたモダンな演出も含めて、これは岡本ファンのみならず、アクション映画ファンも見逃せない問題作である。

 

 花と嵐とギャング

 製作:ニュー東映(東京撮影所)
 封切日:1961.06.23  上映時間:84分  白黒/東映スコープ 
 監督:石井輝男 
 脚本:佐治乾 
 原作:藤原審爾
 出演者:高倉健、鶴田浩二、小川守、清川虹子、江原真二郎、曽根晴美、山本鱗一

新東宝でユニークなアクション、風俗もの等を撮って来た石井輝男が、新東宝の倒産に伴い、東映に移籍して来た第1回作品。母親をはじめ、子供達全部が悪の世界で暮らしている悪党一家という設定が面白い。トッポい高倉健がスマイリー、江原真二郎が楽隊に曽根晴美がウイスパーと、ニックネームで呼び合うのも楽しい。本作もまた、前記の岡本喜八作品と並んで、日本映画離れした、モダンでしゃれた軽快なテンポの犯罪映画の登場として記憶に留めたい。
以後石井輝男は東映東京のギャング路線の中核として大活躍し、それに刺激されて新人監督深作欣二も、同傾向のギャング路線(第1回の「白昼の無頼漢」等)を数本手掛け、第一線に躍り出る契機となった。そういう点を見ても、石井輝男が東映で果たした役割は大きい。
蛇足だが、本作の原作者・藤原審爾は、前回上映の「ある殺し屋」「拳銃は俺のパスポート」、それに'68年の深作欣二監督の快作「恐喝こそわが人生」と、和製フィルム・ノワールに結構原作を提供している点もチェックしておきたい。

 

 恐喝

 製作:東映 (東京撮影所) 
 封切日:1963.09.14  上映時間:91分  白黒/東映スコープ 
 監督:渡辺祐介 
 脚本:田坂 啓 
 出演者:高倉健、三田佳子、安井昌二、加藤嘉、佐藤慶、山形勲 

あまり知られていないが、和製フィルム・ノワールの佳作として挙げておきたいのが本作である。暴力団の幹部、矢吹(高倉健)は、パクられた融通手形千六百万円の取り戻しをボスに頼まれるが、手形を強奪して姿を消す。怒ったボスは敵対する組と手を結んで失吹を追いつめ、凄じい銃撃戦の末、最後は石炭置場でボロ屑のように死んで行く矢吹の哀れな末路が丁寧に描かれている。
高倉健がいい味を出している。渡辺祐介は風俗ものやドリフターズ・コメディくらいでしか知られていないが、こんな力作だって作れるのである。東映アクション映画ファン、健サンファンなら、是非押さえておいて欲しい、これはフィルム・ノワールの隠れた秀作である。残念な事に知名度がない故か、ビデオ、DVDいずれも出ていない。DVD化を東映に要望しておきたい。

 

 みな殺しの拳銃

 製作:日活 
 封切日:1967.09.06  上映時間:89分  白黒/日活スコープ 
 監督:長谷部安春 
 脚本:中西隆三、藤井鷹史(=長谷部安春)
 美術:木村威夫 
 出演者:宍戸錠、二谷英明、山本陽子、沢たまき、葉山良二、藤竜也 

冒頭の、宍戸錠が女を殺して車ごと海に沈めてしまうシークェンスが、ほとんど台詞が無く、低いモダン・ジャズが流れる中でスタイリッシュに展開する。これが監督昇進第3作となる長谷部安春が、初めて作家としての資質を開花させた、和製ハードボイルドの傑作である。宍戸の次男を演じた藤竜也、三男を演じた岡崎二郎がそれぞれ持ち味を出していい。ラストの決闘シーンもアクションに工夫が凝らされ、最後まで緊迫感が途切れない長谷部演出は快調である。この後長谷部は、翌年の「縄張はもらった」、その翌年の「野獣を消せ」とバイオレンス味漂う傑作ハードボイルドを連発し、日活ニューアクションの旗手となって行くのである。

予告編  https://www.youtube.com/watch?v=1zw8uwWf4QE

 

 野獣の復活

 製作:東宝
 封切日:1969.12.06  上映時間:86分  カラー/東宝スコープ 
 監督:山本迪夫 
 脚本:小川英、武末勝 
 出演者:三橋達也、黒沢年男、三田佳子、睦五郎、北川美佳、大滝秀治、佐原健二

岡本喜八の元で長く助監督を経験した、山本迪夫の監督デビュー作。カラッと明るい岡本喜八とは違い、山本演出は暗い情念が漂い、まさにフィルム・ノワールと呼ぶのにふさわしい。
かつてヤクザの幹部だった三橋達也は、今は足を洗い、裏日本の小さな町で実業家として成功していた。が、ある日三橋の弟(黒沢年男)が組織に追われ、恋人を連れ逃げ込んで来る。三橋がいた組織のボス、大滝秀治は三橋に、弟の命と引換えに仕事を依頼し、やむなく引き受けるも、組織は約束を破って黒沢と、三橋の相棒(睦五郎)までも殺してしまう。怒りに燃えた三橋はボスの組事務所に殴り込み、ボス一味を射殺した後、何処ともなく去って行く。
当時46歳の三橋が、組事務所の階段を一気に駆け上がりショットガンを乱射するアクションが素晴らしい。三橋に厚い恩義を感じる寡黙な睦五郎、ネチネチとした薄気味悪いボスを演じる大滝秀治がそれぞれいい味を出して好演。まさにこれぞフィルム・ノワールである。これもVHSが昔出たきりで、現在見るのは困難。是非DVD化して欲しい、隠れた秀作である。

(回想記)
第3回の番組を決定するに当っては、前にも増して選考会議での議論が百出した。別掲プログラムの3ページ「シネマ自由区からの挨拶」にも書かれているように、メンバーそれぞれに愛着のある作品があり、またそれぞれに好きな俳優がおり、5本に絞り込むまでに相当のバトルが繰り広げられた。それだけに、映画ファンに知られた名作もあれば、ほとんど知られていない地味なカルト作もあり、結果としていぶし銀の秀作が並ぶ、ユニークなラインナップになったのではないかと思う。
だが、あまりにマニアックな番組になったせいか、観客動員は90人と、過去最低を記録、かなりの赤字を出してしまった。番組の質と、興行的採算とは相容れない、厳しい現実を思い知らされる事ともなった。この反省は、次回以降の番組編成にも微妙に影響を与えて行く事となる。

 

 
 DVD/ビデオソフト紹介


※PrimeVideo


 「野獣の復活」

 VHS廃盤

   

※次回プログラム 第4回 「野良猫ロック・フェスティバル」