第23回 東映アクションの華麗なる追跡! PartV 「東映集団時代劇の世界」
・場所: 京バシ東映
・上映開始: PM 9:30
・テーマ: さて、いよいよ東映アクション映画特集も最終回、今回のテーマは、東映時代劇が任侠映画に圧されて次第に衰退して行った時期に登場した、“集団時代劇特集”である。61年に、黒澤明監督の「用心棒」が登場し、リアルで血しぶきが飛ぶ豪快な殺陣で時代劇に革命をもたらした事で、それまでの東映調陽性チャンバラ映画は一気に衰退に向かい、変わって63年に始まる任侠映画が東映の主流となっていた。ちょうどこの時期、テレビで「隠密剣士」、映画でも大映「忍びの者」がそれぞれヒットし、忍者ブームが巻き起こった事もあって東映も忍者ものに活路を見出し、数本の忍者ものが作られたが、やがてそこから、名もなき侍たちの、集団対集団の凄惨でリアルな殺陣を取り入れた時代劇、集団時代劇が生まれる事となったのである。このテーマはもっと早く上映したかったのだが実現に至らなかった。最後の上映会で実現出来たのは誠に幸甚であった。
・当日プログラム(PDF) ※ご覧になるには Adobe.Readerのインストールが必要です。
(注)プログラムはすべてB4サイズです。印刷したい場合はB4が印刷出来るプリンターなら問題ありませんが、A4プリンターであれば、B4→A4への縮小プリントを行ってください。
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(作品紹介)
月影忍法帖 二十一の眼
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1963.12.15 上映時間:87分 白黒/東映スコープ
企画:小倉浩一郎、安田猛人
監督:倉田準二
原作:山田風太郎
脚色:森田新、結束信二
撮影:伊藤武夫
音楽:鏑木創
出演者:松方弘樹、里見浩太朗、近衛十四郎、中谷一郎、北条きく子、三島ゆり子、小堀明男
同年5月に公開された「江戸忍法帖 七つの影」に続く山田風太郎原作の忍者もの。この後に作られる、中島貞夫監督のデビュー作「くノ一忍法」のような荒唐無稽エロ作品ではなく、将軍吉宗(里見浩太朗)の命を受けた密偵の忍者松方弘樹が、将軍家追落としを狙う尾張藩家老伊集院頼母(近衛十四郎)の配下・甲賀十一忍衆と死闘を繰り広げる、リアルなアクション時代劇である。既にこの年7月、集団時代劇の最初の傑作「十七人の忍者」(長谷川安人監督)が登場しており、本作の前の週には次に紹介する「十三人の刺客」が公開されているので、同じ山田風太郎原作、倉田準二監督の「七つの影」に比べるとずっと集団時代劇に近い作風になっているのが興味深い。ちなみに「二十一の眼」の意味は、甲賀十一忍衆の一人が片目だからである。
十三人の刺客
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1963.12.07 上映時間:125分 白黒/東映スコープ
企画:玉木潤一郎、天尾完次
監督:工藤栄一
脚本:池上金男
撮影:鈴木重平
美術:井川徳道
音楽:伊福部昭
助監督:田宮武
出演者:片岡千恵蔵、里見浩太朗、嵐寛寿郎、丹波哲郎、内田良平、西村晃、山城新伍、水島道太郎、丘さとみ、藤純子、月形龍之介、菅貫太郎
これは言わずと知れた、集団時代劇の最高傑作であり、工藤栄一監督の代表作でもある名作。出演者も片岡千恵蔵、嵐寛寿郎、月形龍之介といった戦前からの時代劇の名優たちが顔を揃えており、上映時間も他が90分前後であるのに対し、125分と長い。他の集団時代劇に比べると、大作の部類に入ると言えよう。
池上金男の脚本が実に緻密に良く出来ている。将軍の弟君である明石藩主松平斉韶(菅貫太郎)の目に余る暴虐ぶりを鎮圧するには密かに暗殺するしかないとする土井大炊頭(丹波哲郎)の決断も意表を突くし、その命を受けた御目付役島田新左衛門(片岡千恵蔵)が一人づつ暗殺メンバーを集めて行くプロセスも丁寧だ。また敵側の知将・鬼頭半兵衛(内田良平)の相手の動きを察知した先手対応ぶりも敵ながら見事。そしてラスト、落合宿に追い込んだ斉韶側五十三騎対、暗殺隊十三人の30分にもわたる死闘が圧巻である。まさに“集団”時代劇だ。西村晃扮する平山九十郎の豪快な殺陣も見どころだが、その平山が所持する刀が折れてしまった途端、恥も外聞もなく慌てふためき逃げ回り、結局殺されてしまうのがケッサク。相手の武士の一分を立てて半兵衛に斬られる新左衛門の姿は、さすが重鎮片岡千恵蔵ならではの貫禄。明らかに黒澤明監督のリアル時代劇「七人の侍」「用心棒」の影響をモロに受けているのだが、役名も「七人−」の島田勘兵衛から島田新左衛門、「椿三十郎」の敵の知将室戸半兵衛から鬼頭半兵衛と名前の一部を拝借しているのが笑える。西村晃の役名九十郎が三船の三十郎の3倍なのもおかしい(笑)。
これほどの傑作なのに、この年のキネマ旬報ベストテンではなんと31位、得点はたったの5点だった。この作品に限らず、当時のプログラム・ピクチャーに対する評論家の評価は呆れる程低かったのである。
忍者狩り
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1964.09.05 上映時間:87分 白黒/東映スコープ
企画:森義雄
監督:山内鉄也
脚本:高田宏治
撮影:赤塚滋
美術:井川徳道
音楽:津島利章
助監督:中島貞夫
出演者:近衛十四郎、佐藤慶、山城新伍、河原崎長一郎、田村高廣、安部徹、藤山直子、団徳麿、汐路章、天津敏
これも、集団時代劇のベスト5に入る秀作。徳川三代将軍家光による容赦ない外様藩取潰しの嵐が国中に吹き荒れる中、その為に主家を失い浪人となった和田倉五郎左衛門(近衛十四郎)が、同じように取潰される危機にある松山二十万石、蒲生家家老・会沢土佐(田村高廣)の依頼を受け、やはり取潰しとなった元藩士の浪人3名(佐藤慶、山城新伍、河原崎長一郎)を集めて、老中久世大和守(安部徹)が差し向けた忍者、闇の蔵人(天津敏)一味と対決するという物語。蔵人は五郎左の宿敵でもある。
凄まじいのは、蒲生家の家臣8人の中に一人、蔵人の一味がいると知った五郎左が、8人を拷問の末次々と斬り倒して行き、遂に判明した敵の忍者を倒すが、余りの凄惨さに一人は気が狂ってしまう有様。抗議する家臣たちに「こうでもしなければ、闇の蔵人一味は倒せんのだ」と返す五郎左。鬼の形相の近衛十四郎が圧巻の名演技。
ラストも凄い。閉じ込められた地下の霊廟内での五郎左たちと蔵人との息詰まる対決は手に汗を握る。佐藤慶共々蔵人を刺し貫いてやっと五郎左が勝利するまで、ハラハラし通しだった。ヒッチコックも顔負けのサスペンスである。闇の蔵人に扮した天津敏がとても怖い。高田宏治の脚本も見事で、これが第1回監督作となる山内鉄也も新人とは思えない緊迫した演出の冴えを見せる。ちなみに、城の幼い嫡子種丸を演じていたのは、子役時代の藤山直美である。
なお高田宏治はこの前に「柳生武芸帳 片目水月の剣」、「同・剣豪乱れ雲」と「柳生武芸帳」シリーズに集団時代劇タッチを盛り込み、この後の「柳生武芸帳 片目の忍者」(松村昌治監督)、「十兵衛暗殺剣」(倉田準二監督)でこれまた集団時代劇の傑作を手掛ける事となる。池上金男と並んで集団時代劇を盛り上げた名脚本家と言えるだろう。
(注)日本映画データベース(JMDB)、allcinemaでは「柳生武芸帳 片目の忍者」の脚本が笠原和夫となっているが、これは高田宏治の誤り。
隠密侍危機一発
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1965.12.18 上映時間:87分 白黒/東映スコープ
企画:松平乗道
監督:山下耕作
脚本:田坂啓
撮影:鈴木重平
美術:塚本隆治
音楽:津島利章
出演者:丹波哲郎、内田良平、藤純子、河原崎長一郎、桜町弘子、二本柳寛、大友柳太朗、内田朝雄
信州の小藩内部のお家騒動を描く作品で、悪徳城代家老(内田朝雄)によって乗っ取られかけている藩の若侍たちが、城代家老の不正を暴こうと策を練っていた。そんな所にフラリと現れた素浪人風の秋月慎次郎(丹波哲郎)が若侍たちに加勢し、危うく政略結婚させられそうになっていた城主の姫(藤純子)を救い、最後に悪徳家老一味を倒す、…というストーリーは、黒澤明監督「椿三十郎」とそっくり。しかも秋月とは昔馴染みでありながら、城代家老の配下ゆえ秋月と対決する事になる佐倉徹之介(内田良平)の役柄も、「椿三十郎」の仲代達矢扮する室戸半兵衛とよく似ている。ラストも、城代家老が切腹を命ぜられ一件落着した後、武士の意地で佐倉が秋月と対決するという所までそっくりという徹底ぶり。ここまでパクられては参ったと言うしかない(笑)。まあそれなりに楽しめる出来だから大目に見よう。ただ、姫と秋月との間の淡い恋模様など、昔の時代劇のような大らかさが感じられるのは、監督が61年にデビューし、「若殿千両肌」などの陽性時代劇も撮っている山下耕作という事もあるのだろう。個人的には、集団時代劇には入らないと思うがどうだろうか。
ちなみに、若侍グループの中に、佐藤蛾次郎がいた(当時は佐藤忠和名義)。この頃、東映の時代劇に何本か出演していたようだ。
十一人の侍
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1967.12.16 上映時間:100分 白黒/東映スコープ
企画:岡田茂、天尾完次
監督:工藤栄一
脚本:田坂啓、国弘威雄、鈴木則文
撮影:吉田貞次
音楽:伊福部昭
助監督:大西卓夫
出演者:夏八木勲、里見浩太朗、南原宏治、宮園純子、佐藤慶、菅貫太郎、青木義朗、林真一郎、西村晃、大友柳太朗
さて、最後は、集団時代劇の最後の秀作と言える本作の登場である。監督も「十三人の刺客」、「大殺陣」の工藤栄一、プロデューサーも「十七人の忍者」、「十三人の刺客」を企画した集団時代劇の仕掛人・天尾完次。真打の登場と言えるだろう。
物語は、将軍の弟にあたる暴君藩主・松平齊厚(菅貫太郎)によって藩主を殺された忍藩次席家老榊原帯刀(南原宏治)が老中に訴えるも、却下されたあげく逆に藩取潰しの危機に直面し、帯刀は藩主の復讐の為、盟友の仙石隼人(夏八木勲)をリーダーとする十一人の暗殺隊を結成する。…とほぼ「十三人の刺客」と同パターン。しかも暗殺の標的の暴君を演じているのが前作と同じ菅貫太郎(笑)。他にも里見浩太朗、西村晃が前作と同じような役を演じている。そして終盤は五十人の騎馬隊に守られた松平齊厚一行に十一人の刺客が襲い掛かる…と、ほぼ「十三人−」のリメイクと言ってもいいくらいだ。違うのは、暗殺隊の中に一人女性(大川栄子)が加わっている事と、このクライマックスの死闘が土砂降りの雨の中で行われるという点。これは「七人の侍」からのいただきだろう。ラストは夏八木勲と前作の鬼頭半兵衛に当る大友柳太朗が凄絶な斬り合いの末相討ちとなり、結局一人だけ生き残った西村晃が齊厚の首をぶら下げて去って行く所で終わる。前作で情けない死に様を見せた西村の名誉挽回で、今回はいい役を与えたのかも知れない。
工藤演出は今回もスリリングかつダイナミックで魅せるが、前作より予算がかなり削られたようで、セットの建て込みは今一つの出来。興行的にもコケて、本作をもって集団時代劇はその短い歴史を終える事となった。
(回想記)
というわけで、京バシ東映での上映会第3弾もこれにて無事終了。これが成功したなら以降も上映会を続けるつもり―ではあったのだが、思ったほど観客動員は伸びずに赤字は増え、また東映作品しか上映出来ないのでは先行き頭打ちになるのは見えていたので、遂にシネマ自由区上映会は、この日を持って終了する事となった。尽力していただいた湯原支配人の期待に沿えず申し訳ない気持ちでいっぱいであった。…それでも、第1回から数えて、番外編も含めて32回、1年10ヵ月もの間、自分たちの好きなように番組を編成して、なかなか劇場にかからないカルト作品も観る事が出来た上、熱心なファンも生み、終了を惜しむ声をあちこちから頂いたのが何よりも嬉しかった。我々の青春時代の、いい思い出として記憶に残り続ける素敵なイベントであった。(完)
DVD/ビデオソフト紹介