第2回 「殺し屋列伝」

 
開催日: 1974年10月19日(土)

場所: シギノ大劇

上映開始: PM 10:30

テーマ: アクション映画のジャンルの中でも、荒唐無稽な存在 =“殺し屋”が主人公の映画ばかりを集めた特集。いずれも、カルト的な人気を誇り、今もなお熱狂的なファンが多いプログラム・ピクチャーの傑作ばかりである。

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(作品紹介)

 ある殺し屋

 製作:大映(京都撮影所) 
 封切日:1967.04.29 上映時間:82分  カラー/シネマスコープ 
 監督:森 一生 
 脚本:増村保造、石松愛弘 
 原作:藤原審爾
 撮影:宮川一夫 
 出演者:市川雷蔵、野川由美子、成田三樹夫、渚まゆみ、小池朝雄 

市川雷蔵扮する無口な小料理屋の板前、実は凄腕のプロの殺し屋−という設定が秀逸。脚本は面白い事に、前回上映の「大悪党」のコンビ。何を料理させても、一流に仕上げる増村・石松コンビはまさにプロ中のプロである。タタミ針を武器に、音もなく一瞬に相手を倒す殺しのテクニックは、後の必殺仕掛人・藤枝梅安にも影響を与えているように思う。回想と現実とを巧みに交錯させた語り口も効果的。森一生監督は、「薄桜記」など、雷蔵と組んだ時代劇の秀作をいくつも作っているが、現代劇では本作が最高ではないか。名手・宮川一夫の撮影もいつもながら絶品。トボけた名セリフを吐く成田三樹夫がまたいい。スタイリッシュ、かつクールなフィルム・ノワールのムードが充満した傑作である。

 

 殺人狂時代

 製作:東宝 
 封切日:1967.02.04  上映時間:99分  白黒/東宝スコープ 
 製作:田中友幸、角田健一郎 
 監督:岡本喜八 
 脚本:小川英、山崎忠昭、岡本喜八 
 原作:都筑道夫
 撮影:西垣六郎 
 音楽:佐藤勝 
 出演者:仲代達矢、団令子、砂塚秀夫、天本英世、江原達怡

岡本喜八作品の中でも、笑いと狂気のカルト度は最高の怪作である。ゆえか数ヶ月おクラになったうえロクに宣伝もされずにひっそり公開され、見事に記録的な不入りとなった。
物語は、「大日本人口調節審議会」なる怪しい団体から派遣された殺し屋たちから狙われる、水虫持ちの冴えない大学講師・仲代達矢が、人を食った手法で飄々と逆襲して行くコメディ・ハードボイルド・アクションである。天本英世扮する敵のボスの根城である精神病院が、ドイツ表現主義を思わせる凝ったデザインであったり、仲代の乗る超オンボロ・シトロエン2CVの車止めに下駄を使ったり、とにかくディテールにも凝りまくり、遊びまっくている、まさに岡本喜八監督の独壇場。こういう作品を楽しめるようになれば、立派な映画フリークであると言えよう。

予告編  https://www.youtube.com/watch?v=JmT1qMEnV9k  (※ Internet Explorerでは閲覧できません。 Microsoft Edgeでアクセスしてください)

 

 拳銃(コルト)は俺のパスポート

 製作:日活 
 封切日:1967.02.04  上映時間:84分  白黒/日活スコープ 
 監督:野村 孝 
 脚本:山田信夫、永原秀一 
 原作:藤原審爾
 撮影:峰重義
 音楽:伊部晴美
 助監督:桑山朝夫
 出演者:宍戸錠、小林千登勢、ジェリー藤尾、嵐寛寿郎、杉良太郎 

宍戸錠自身も自選する、日活フィルム・ノワール・ハードボイルド・アクションの最高傑作。まるで「ゴルゴ13」のようなクールなスナイパーを好演する宍戸錠と、草薙幸二郎や江角英明が演ずる札付きの殺し屋たちとの対決が、野村孝監督の緊迫感溢れるサスペンス演出で絶妙に描かれている。相棒のジェリー藤尾もいい。ラストの埋立地での決闘シーンも日本映画離れしたスケール感で見ごたえあり。全力で走りながらショットガンと拳銃を持ち替え連射する宍戸錠を並走しながら捉えたカメラワークも最高。これぞ映画、これぞハードボイルドである。

 

 紅の流れ星

 製作:日活 
 封切日:1967.10.07  上映時間:97分  カラー/日活スコープ 
 監督:舛田利雄 
 脚本:池上金男、舛田利雄 
 撮影:高村倉太郎
 美術:木村威夫 
 音楽:鏑木創
 助監督:小沢啓一
 出演者:渡哲也、浅丘ルリ子、杉良太郎、松尾嘉代、藤竜也、宍戸錠 

舛田利雄監督は、デビュー当時の裕次郎主演ものから、日活アクション末期の本作を含む渡哲也主演ものまで、数多くのアクション映画を撮っているが、本作はその中でもカッコ良さと粋さと楽しさでは最高作ではなかろうか。元々は、何かの事情で予定していた作品が流れ、急遽穴埋めに2週間ほどで1本作らざるを得なくなり、新作を練る時間がないので舛田監督が以前に作った裕次郎主演「赤い波止場」を引っ張り出して来てリメイクしたものである。それが、オリジナルを上回る快作になるのだから何が幸いするか分からない。「赤い波止場」自体、ジャン・ギャバン主演のフランス映画の名作「望郷」の焼き直しであるのだが、本作はさらに主人公のキャラクターとラストのシークェンスに、J・L・ゴダール監督のヌーベルヴァーグの傑作「勝手にしやがれ」からのいただきも盛り込まれている(悪く言えばパクリ(笑))。渡が浅丘ルリ子に「寝ようよ、寝ようよ」と口説く辺りは「勝手に−」の主人公J・P・ベルモンドそのまんま。「いとしのマックス」をハミングしたり、こんな軽いノリの渡哲也は初めてである。藤竜也の刑事に撃たれ、口笛を吹きつつ、自分で帽子を顔にかぶせて息絶えるラストまで、キザっぽさと切なさとが絶妙にバランスを保って見事である。脚本に東映「十三人の刺客」等の実力派・池上金男が参加している点も注目。この舛田+池上+渡トリオがこの後「無頼より・大幹部」を発表し、後の日活ニューアクション誕生のきっかけになった事を思えば、本作は日活アクション映画史においても重要なポジションにあると言えるだろう。そういう意味でも記憶に留めておくべき秀作である。

予告編  https://www.youtube.com/watch?v=tSOGwN_VuSw   (※ Internet Explorerでは閲覧できません。 Microsoft Edgeでアクセスしてください)

 

 ならず者

 製作:東映(東京撮影所)
 封切日:1964.04.05  上映時間:98分  カラー/東映スコープ 
 監督:石井輝男 
 脚本:石井輝男 
 出演者:高倉健、丹波哲郎、杉浦直樹、江原真二郎、南田洋子、加賀まり子

石井輝男・高倉健コンビの作品は、後の「網走番外地」シリーズに至るまで魅力的な作品がいくつもあるが、本作はその中でも、フィルム・ノワールの味わいが色濃く出た力作である。舞台は香港・マカオ・横浜と縦横に展開し、依頼を受けた謎の香港マフィアの罠に嵌められたと知った健サンが、巨大な組織相手に挑む孤独な闘いを描く。カスバのような香港の裏通りをさ迷う健サンを、手持ちカメラで追った撮影が効果的。健サンに次第に友情を感じて行く丹波哲郎がいい。そしてこの手の映画には珍しい南田洋子が薄幸な娼婦役を熱演。「網走番外地」でブレイクする直前の、高倉健の代表作であろう。

 

(回想記)
第1回は、個性的な監督の異色作を集めたものの、テーマ性は希薄であったが、この第2回からはっきりと、テーマに沿った作品、あるいは特定の監督の作品を並べる、というスタイルが確立する。また第1回では、どちらかと言うとアート系に分類される吉田喜重監督作品が入っていたが、2回目以降はひたすら、B級プログラム・ピクチャーだけに絞って行くスタンスを貫く事となる。よって黒澤・小津・木下は無論のこと、市川崑も内田吐夢も、山田洋次作品すらも以後は一切取り上げないという徹底ぶりであった。
今回は、“殺し屋”がテーマであったが、取り上げた作品は、スタイリッシュでクールなタッチ(ある殺し屋)、ナンセンス・コメディ・タッチ(殺人狂時代)、ハードボイルド・ガンアクション(拳銃は俺のパスポート)、遊び心あふれる楽しい作品(紅の流れ星)、外国ロケもの(ならず者)とバラエティ豊か。メンバーそれぞれ、熱烈に支持する俳優・監督がいて選定会議は侃々諤々、ボルテージは上がるばかりであった。なお観客数は、前回より増えて122人。この調子で右肩上がりで伸びて行くものと期待したのだが…。
ところで、封切日を見てて面白い事に気付いた。「ならず者」を除いていずれも1967年度の作品ばかりなのである。この年は、別項「おちこぼれベストテン」にも書いてあるが、何故か和製殺し屋・ハードボイルド大当たりの年で、この他にも、鈴木清順監督の「殺しの烙印」、やはり宍戸錠主演「みな殺しの拳銃」(長谷部安春監督)、「ある殺し屋」の続編「ある殺し屋の鍵」(森一生監督)、さらにピンク映画にも、「殺しの烙印」に脚本参加、ならびに殺し屋の一人として出演もしている大和屋竺監督「荒野のダッチワイフ」と、まさに殺し屋映画ラッシュ。狂い咲きと言ってもいいだろう。示し合わせた訳でもなさそうだし、なぜこうなったかは未だに謎(?)である。こういう歴史も、知っておくとなお面白い。

 
 DVD/ビデオソフト紹介



 ※ これまでVHSしか出てなかった「拳銃は俺のパスポート」と「紅の流れ星」のDVDが発売された。この他にも日活アクション映画のDVDがいくつか発売された模様。ファンとしては嬉しい事である。
 

※次回プログラム 第3回 「暗黒映画傑作選」