第12回 「東映一家渡世十年」 PartU

 
開催日: 1975年8月9日(土)

場所: シギノ大劇

上映開始: PM 10:40

テーマ: 前回に続く、東映任侠映画の代表作上映パート2。昭和43年後半から同47年にかけての、東映任侠映画が爛熟期を迎えていた時期の傑作やオールスター大作など、バラエティ豊かな組合わせである。トリを飾るのは藤純子引退記念映画。この10本を見れば東映任侠映画のスタートから終焉までを一望出来る事となる。詳しい総括は後の回想記にて。

当日プログラム(PDF)  ※ご覧になるには Adobe.Readerのインストールが必要です。

(注)プログラムはすべてB4サイズです。印刷したい場合はB4が印刷出来るプリンターなら問題ありませんが、A4プリンターであれば、B4→A4への縮小プリントを行ってください。

※なお、PartTの当日プログラムに掲載した「東映任侠映画十年史」の続き(その2)は、手違いで掲載出来なかったので、番外編「藤純子」特集のプログラムに掲載しています。お読みになりたい方はこちらをクリックするとそのプログラムが開きます。

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(作品紹介)

 侠客列伝

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1968.08.01 上映時間:106分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、日下部五朗 
 監督:マキノ雅弘 
 脚本:棚田吾郎 
 撮影:鈴木重平 
 音楽:木下忠司   
 出演者:高倉健、若山富三郎、藤純子、桜町弘子、長門裕之、里見浩太郎、藤山寛美、鶴田浩二

 任侠映画がピークに差しかかっていた頃、いわゆるスター総出演で豪華さを打ち出した新シリーズ「列伝」ものの第一弾。で、お話は、組の親分がいじめられた末に手を出し、その為に殺されてしまい、組は1年の謹慎。子分たちは散り散り、我慢に我慢を重ねた末に、健さんたちが殴り込み…。任侠映画によくあるパターンだが、ストーリーが「忠臣蔵」そっくりだという声が当時多かった。確かに親分が大切な式の世話をまかされ、作法が違うといびられ堪忍袋の緒を切って手を出して殺され、相手側はお咎めなしそして1年余の忍従期間の後に殴り込み…と、「忠臣蔵」と似た部分は多い。オールスターものという共通点もある。でも、もともと任侠映画スタート時に当時の岡田茂東撮所長が「『忠臣蔵』で行け」と言ったのが始まり、とも言われているわけで、実際、任侠映画を振り返って見ると、“悪役の度重なるイジメに、我慢に我慢を重ね、最後に殴り込み(時には忠臣蔵同様、雪の中の道行もある)”という具合に、忠臣蔵のバリエーションを取り入れた作品が確かに多い。まあそれはともかく、マキノ雅弘監督の演出はいつもながら快調で、爛熟期の東映任侠映画の底力を見せ付けた作品と言えよう。

予告編  https://www.youtube.com/watch?v=_aEXLs0LqVY  (※ Internet Explorerでは閲覧できません。 Microsoft Edgeでアクセスしてください)

なんと、「日本侠客伝」シリーズのダイジェストまで付いてて、「日本侠客伝」シリーズの1本のような扱いである。

  

 日本女侠伝・侠客芸者

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1969.07.31 上映時間:99分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、日下部五朗 
 監督:山下耕作 
 脚本:野上龍雄 
 撮影:鈴木重平 
 音楽:木下忠司 
 助監督:篠塚正秀
 出演者:藤純子、高倉健、若山富三郎、藤山寛美、桜町弘子、三島ゆり子、金子信雄、遠藤辰雄

前年、「緋牡丹博徒」シリーズがスタートし、人気が沸騰した藤純子主演の新シリーズ1作目。ただし、ピストルは持ってるし啖呵は切るけど、お竜と違って派手な立ち回りはしない。山下耕作監督はさすが、健さんに仄かに思いを寄せる藤純子をあでやかに美しく描いている。ラスト、敵に乗り込み斬りまくる健さんと、舞を踊る藤の姿をカットバックで並行して描く演出が見事。…それにしてもラストだけ観ていると、芸者の藤は「止めやしません」と言いながらせつなく見送るし、健さんは諸肌脱いで斬り込み、「死んで貰うぜ」というセリフまで飛び出す等、ほとんど「昭和残侠伝」シリーズ(特に「死んで貰います」)を観ているのかと勘違いしそうである(笑)。

予告編   https://www.youtube.com/watch?v=KiJZt_U05CE  (※ Internet Explorerでは閲覧できません。 Microsoft Edgeでアクセスしてください)

 
 

 緋牡丹博徒・お竜参上

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1970.03.05 上映時間:100分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、日下部五朗 
 監督:加藤 泰 
 脚本:加藤 泰、鈴木則文 
 撮影:赤塚 滋 
 音楽:斎藤一郎
 助監督:本田達男、土橋享、比嘉一郎 
 出演者:藤純子、菅原文太、若山富三郎、嵐寛寿郎、汐路章、山岸映子、山城新伍、安部徹

同じ加藤泰が監督した第3作「花札勝負」の後日譚的な物語である。お竜は前作で死んだニセお竜の娘、君子(山岸映子)を探す旅を続け、浅草の嵐寛寿郎の組に草鞋を脱ぎ、そこでようやく君子を見つける。何で捨てたとなじる君子とお竜とのやりとりを、延々7分間の長回しで捕らえたシーンが出色。いつもながらのローアングルは無論だが、対角線構図を多用したアングルも素晴らしい。渡世人の青山常次郎(菅原文太)と、雪の今戸橋の上で別れるシーンは惚れ惚れするほど美しい。雪の上をころがるミカンは、加藤作品お馴染みの女性からの果物プレゼント。男女の機微を情感豊かに描いた、シリーズ中でもこれは最高作である。

予告編  https://www.youtube.com/watch?v=6uefIEqA2hA   (※ Internet Explorerでは閲覧できません。 Microsoft Edgeでアクセスしてください)

 

 博奕打ち・いのち札

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1971.02.13 上映時間:106分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、橋本慶一 
 監督:山下耕作 
 脚本:笠原和夫 
 撮影:吉田貞次 
 音楽:木下忠司 
 助監督:清水 彰 
 出演者:鶴田浩二、若山富三郎、安田道代、水島道太郎、渡瀬恒彦、遠藤辰雄、内田朝雄、天津敏

「博奕打ち」シリーズの1本で、「総長賭博」と同じ笠原和夫脚本、山下耕作監督のコンビだが、こちらのストーリーは前作とはうって変って、ラブロマンス仕立てである。直江津で知り合った鶴田と安田道代は深く愛し合ったが、鶴田が東京に戻る事になり、1年後の再会を誓ったのに、鶴田が渡世の行きがかりで人を殺めてしまい、刑務所に入って約束の日に会えず、…と、まるで往年のすれ違いメロドラマ。5年の刑期を終えて出所すれば、愛する女はなんと親分(水島道太郎)の妻。安田を姐さんと立てなければならない、とやはり悲劇のドラマが展開する。本当に笠原氏の脚本は実にしっかり構築されていて見事。特にいいのが、“女を本当に愛しているなら、渡世から出て行くべきだ”と諭す若山富三郎の言葉。任侠映画でありながら、“人間らしく生きるとはどういう事なのか”というテーマが鮮烈に打ち出されている。最後は一応殴り込みはあるが、鶴田は「この渡世から出て行くんだ!」と叫んでいる。その向かう先には鈴木清順作品を思わせる真っ赤な血の池地獄。さらに追い討ちをかけるように神棚の神酒徳利を叩き割るシーンでストップ・モーション…といった具合に、笠原・山下コンビの従来型ヤクザ映画批判は相変わらず鋭い。そろそろ衰退期を迎えつつあった東映任侠映画の、ある意味“最後の傑作”と言えるのではないだろうか。

ずっとDVDが発売されていなかったが、ようやく最近発売された。

 
 藤純子引退記念映画 関東緋桜一家

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1972.03.04 上映時間:102分  カラー/東映スコープ
 製作:岡田 茂 
 企画:俊藤浩滋、日下部五朗、武久芳三 
 監督:マキノ雅弘 
 脚本:笠原和夫 
 撮影:わし尾元也 
 音楽:木下忠司 
 助監督:清水 彰
 出演者:藤純子、鶴田浩二、高倉健、若山富三郎、菅原文太、待田京介、木暮実千代、南田洋子、長門裕之、嵐寛寿郎、金子信雄、片岡千恵蔵

さて、トリを飾るのは、この年、尾上菊之助との結婚・女優引退を発表した、任侠映画の華、藤純子の引退記念映画である。タイトルにも堂々「引退記念映画」の文字が入っている。前代未聞である。いかに藤の人気が高かったかが伺える。
任侠映画ブームもピークを過ぎて、ややマンネリの気配が濃厚となり、観客動員も減少傾向にあったこの時期でもなお、「緋牡丹博徒」シリーズをはじめとするヒット・シリーズを連打していた藤純子の引退は東映にとってかなりの痛手であったが、ファンにとっても青天の霹靂であった。それまでは、女優は結婚しても、多少仕事は減らすけれど引退はしないのが慣例で、事実、岩下志麻も岡田茉莉子も吉永小百合も、結婚後も女優を続けていた。毅然と“引退”を宣言した女優はおそらく彼女が初めてではなかっただろうか(後年、山口百恵がスパッと引退したのも、藤引退に感化されたと私は見る)。
藤自身は、引退宣言後は映画に出ないつもりだっただろうが、抜け目ない岡田茂社長は、父親の俊藤浩滋に「せめて最後に、もう一本引退映画を作るように説得してくれ」と頼み、監督には彼女の名付け親で育ての親でもあるマキノ雅弘を持って来て、無理矢理というか引退記念映画を作らせてしまったのはさすがである。
出演者も当時考えられる限りの東映オールスター総出演。ベテラン笠原和夫が書いた脚本も、うまく各人に見せ場を網羅し、マキノ演出も引退記念にふさわしい、豪華絢爛たる任侠娯楽大作に仕上げていた。ただ日頃より「女の立ち廻りは嫌だ」と言い続けていたマキノ監督の意を汲んでか、ラストの藤の立ち回りシークェンスの演出は小沢茂弘監督が担当した。
そして最後のシーン、藤がカメラに向かって(つまり観客に向かって)「皆さん、お世話になりました」と頭を下げ、去って行く。まさに映画と言うより、舞台の引退興行のよう。今にして思えば、消え行く任侠映画の、最後の打ち上げ花火のような作品でもあった。

  
(回想記)

パート1、2合わせて10本の作品を振り返ってみると、監督の顔ぶれが、1作目の沢島忠を除くと、マキノ雅弘4本、山下耕作3本、加藤泰2本…。なんと、この3人だけで全プログラムを占めていた事になる。この人たち以外にも「昭和残侠伝」シリーズ初期3本を監督した佐伯清とか、「博奕打ち」シリーズの初期を始め、「博徒」シリーズ、「関東」シリーズと、多数の任侠映画を撮りまくった小沢茂弘など、活躍した監督は多いのだが、任侠映画を代表する傑作・秀作群をピックアップしてみたら、このマキノ、山下、加藤トリオがほとんどを占めた、という事なのである。この3人の一人でも欠けていたら、東映任侠映画はもっと早く衰退していたかも知れない。
主演俳優別に分けると、鶴田浩二が4本、高倉健、藤純子が各3本となる。ただ藤純子はパート1では助演作が4本もあり、主演作はすべてパート2。つまりは、東映任侠映画史の後半=ややマンネリ期に入った時期を牽引したのは間違いなく彼女であったという事になる。彼女の引退で、東映任侠映画はその歴史をほぼ終える事となるのである。当上映会はそれから約3年後。まだ任侠映画の熱気は冷めやらず、上映会は全盛当時とまでは行かなくとも、まずまずの盛り上がりであった。そういう事もあって、当上映会はこれ以降も、(主に番外編として)任侠映画特集を何度か行う事となるのであった。

 
 DVD/ビデオソフト紹介

 




   

※次回プログラム 第13回 「鈴木清順 青春譜」