第10回 「赤線を知らない子供たち」

 
開催日: 1975年6月14日(土)

場所: シギノ大劇

上映開始: PM 10:40

テーマ: 毎回、ユニークな番組と自負するシネマ自由区のオールナイトも、とうとう10回目を迎える事となった。その節目の番組は、なんと赤線もの特集。既に“赤線”なんてのは死語になってしまっている時代、まさにタイトル通り、これは赤線を知らない若者たちに送る、赤線をテーマとした日本映画の中から、さらに隠れた名作をより選った、極めてユニークな上映会なのである。監督も、名匠豊田四郎から、佐藤純彌、前田陽一、加藤泰、成澤昌茂といったプログラム・ピクチャーの異才まで多種多様。これで、少しでも赤線という存在があった事を知っていただければ幸い(?)である。

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(注)プログラムはすべてB4サイズです。印刷したい場合はB4が印刷出来るプリンターなら問題ありませんが、A4プリンターであれば、B4→A4への縮小プリントを行ってください。

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(作品紹介)

 濹東綺譚

 製作:東京映画 配給:東宝 
 封切日:1960.08.28 上映時間:120分  白黒/東宝スコープ
 製作:佐藤一郎 
 監督:豊田四郎 
 原作:永井荷風 
 脚本:八住利雄 
 撮影:玉井正夫 
 音楽:團伊玖磨 
 助監督:平山晃生  
 出演者:山本富士子、芥川比呂志、新珠三千代、乙羽信子、淡路恵子、東野英治郎、岸田今日子

当シネマ自由区オールナイト上映会での暗黙のルール(?)では、巨匠監督作は取り上げない事にしているが、本作は初めての巨匠作品である。(…とは言っても、豊田四郎監督、「負ケラレマセン勝ツマデハ」とか「駅前シリーズ」3本とか、結構軽いプログラム・ピクチャーも撮ってはいるが)
原作は永井荷風だが、赤線玉の井という舞台が共通するだけで、お話はほとんど脚本の八住利雄が書き上げたオリジナル・ストーリーと言ってもいい。所帯持ちの中学教師(芥川比呂志)と、苦界に身をやつす女(山本富士子)との悲恋を、格調高い演出で描いた力作。五社協定の締め付けが厳しい時代、大映専属の山本富士子を特別に借りたのは、和服が似合って演技力があって、生活感も出せて、主演としても客が呼べる女優が東宝にはいなかったという事か。なお本作は、永井荷風没後1周年を記念して製作された。

 

 廓育ち

 製作:東映(東京撮影所) 
 封切日:1964.09.23 上映時間:105分  カラー/東映スコープ
 企画:辻野公晴、吉田 達、本田延三郎 
 監督:佐藤純彌
 原作:川野影子 
 脚本:棚田吾郎 
 撮影:飯村雅彦 
 音楽:佐藤 勝
 出演者:三田佳子、中村賀津雄、梅宮辰夫、緑 魔子、三益愛子、佐々木愛

売春防止法が制定される直前の京都の廓・島原を舞台とした、新鋭佐藤純彌監督の、デビュー3作目に当る作品。母に捨てられ、6歳の時から、文字通り廓で育ったたみ子(三田佳子)の数奇な運命を描く。三田佳子が溌剌とした生きのいい名演技を見せ、相手役の梅宮辰夫も純情な医学生を好演。この二人の、現在からは想像がつかない(笑)純朴な役者ぶりを見るだけでも値打ちがある。島原遊郭が、売春防止法施行後も、巧みに法律をすり抜けようとして策を講じる辺り、赤線史の勉強にもなる(かな?)。

 

 にっぽんぱらだいす

 製作:松竹(大船撮影所) 
 封切日:1964.10.04 上映時間:93分  白黒/シネマスコープ
 製作:佐々木孟 
 監督:前田陽一 
 脚本:前田陽一 
 撮影:竹村 博 
 音楽:山本直純 
 助監督:三村晴彦 
 出演者:香山美子、ホキ徳田、長門裕之、加東大介、加賀まりこ、勝呂 誉、菅原文太

前田陽一監督の、記念すべきデビュー作。舞台は吉原がモデルの“桜原”。敗戦から昭和33年の売春防止法施行までの、赤線地帯の歴史と人間模様を、前田監督らしいコミカルなタッチで描く。それぞれに、逞しく元気に生きる女たちのあっけらかんとした生活ぶりが楽しい。菅原文太が元軍人役でワンシーン出演しているのも見どころ。前田喜劇の原点とも言える、映画ファンなら見逃せない秀作である。

 

 骨までしゃぶる

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1966.06.12 上映時間:88分  白黒/東映スコープ
 企画:岡田 茂、三村敬三 
 監督:加藤 泰 
 脚本:佐治 乾 
 撮影:わし尾元也 
 音楽:斎藤一郎 
 助監督:原田隆司、俵坂昭康、関本郁夫 
 出演者:桜町弘子、久保菜穂子、夏八木勲、宮園純子、沢 淑子、三原葉子、遠藤辰雄、菅井きん、三島雅夫

1966年の加藤泰監督作品だが、この年加藤泰は本作も含め、「沓掛時次郎・遊侠一匹」「男の顔は履歴書」「阿片大地・地獄舞台突撃せよ」と、東映、松竹を股にかけて4本もの作品を監督している。しかも、どれもハズレがない。「沓掛時次郎・遊侠一匹」は股旅映画史上に残る傑作だし、前年にも傑作「明治侠客伝・三代目襲名」を発表している。一番脂の乗り切った時期だと言える。
本作も、地味な題材ながら、佐治乾の脚本の良さもあって、虐げられていた主人公が、強い意志をもって生き抜き、やがて自立するまでを緩急自在、テンポよく描いて見応えある作品に仕上がっている。人間が上向きの姿勢でこちらに飛んで来る、スラップスティックなシーンが笑える。多分唯一の単独主演作であろう桜町弘子が、同じ加藤監督の秀作「車夫遊侠伝・喧嘩辰」と並ぶ見事な名演技を見せる。先般亡くなった夏八木勲のデビュー作でもある。ソフト化されていないのが残念。DVD発売を強く望む。

 四畳半物語 娼婦しの

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1966.02.17 上映時間:89分  白黒/東映スコープ
 企画:小倉浩一郎 
 監督:成澤昌茂 
 原作:永井荷風 
 脚本:成澤昌茂 
 撮影:鈴木重平 
 音楽:杵屋花叟
 出演者:三田佳子、野川由美子、田村高廣、露口 茂、三島ゆり子、木暮実千代、進藤英太郎

トリを飾るのは、1番目と同じ永井荷風原作で、主演が2番目と同じ三田佳子主演とは、よく出来た番組編成と自画自賛(笑)。しかし原作はあの日活ロマンポルノの傑作「四畳半襖の裏張り」(神代辰巳監督)の元ネタでもある「四畳半襖の下張」。春本としても知られるだけに、きわどいポルノティックな描写を期待してしまうが、脚本・監督が溝口健二を師と仰ぐ成澤昌茂だけに、残念ながら期待には沿えない(笑)。演出もワンシーン・ワンショットの長回しに、底辺の人間をじっと凝視するねちっこい演出と、師匠・溝口の強い影響が感じられる。また進藤英太郎に木暮実千代(「雪夫人絵図」主演)と、溝口ゆかりの人が出演しているのも興味深い。そう言えば溝口監督の遺作は「赤線地帯」だった。成澤は後に、その「雪夫人絵図」を自らリメイクしている。

 
(回想記)

赤線ものは上記の他にも、上に挙げた溝口健二監督「赤線地帯」(1956・大映)、川島雄三監督の「洲崎パラダイス 赤信号」(1956・日活)、赤線廃止のその後を描いた田中重雄監督
「赤線の灯は消えず」(1958・大映)等、秀作・異色作は数多くある。一応上映作品候補にも挙がったが、溝口作品はあまりにも巨匠過ぎ、川島作品は選考メンバーの人気も高かったが、赤線を直接描いている作品ではないので選外に。まあ面白い企画ではあったが、地味過ぎて予想通りというか、観客動員は惨憺たるものであった。

 
 DVD/ビデオソフト紹介

 

「骨までしゃぶる」

ソフトなし
「四畳半物語・娼婦しの」

ソフトなし

   

※次回プログラム 第11回 「東映一家渡世十年・PartT」