番外編第8回 「花と長ドス −健と純子の世界−」
・場所: シギノ大劇
・上映開始: PM 10:30
・テーマ: 番外編第8弾は、細川君の緋牡丹亭と庄内さんの無頼社との共同開催による、高倉健と藤純子の共演作特集。お二人とも以前にそれぞれ藤純子、高倉健特集を行っているので、共同開催も自然の流れと言える。今回の上映作品、前半の3本はいずれもマキノ雅弘監督による健さん主演作で、純子がとてもいい共演ぶりを見せたマキノ監督らしい良作ばかり。後の2本は純子の「日本女侠伝」シリーズに健さんが客演した作品。高倉健と藤純子両方のファンなら満足出来る上映会と言えるだろう。
・当日プログラム(PDF) ※ご覧になるには Adobe.Readerのインストールが必要です。
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(作品紹介)
昭和残侠伝 血染の唐獅子
製作:東映(東京撮影所)
封切日:1967.07.08 上映時間:90分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、吉田達
監督:マキノ雅弘
脚本:鈴木則文、鳥居元宏
撮影:星島一郎
音楽:菊池俊輔
助監督:寺西国光
出演者:高倉健、池部良、藤純子、加藤嘉、牧紀子、水島道太郎、山城新伍、津川雅彦、清川虹子、河津清三郎、天津敏
シリーズ4作目で、ここで初めて花田秀次郎と風間重吉の名前が定着する。監督も前3作の佐伯清からマキノ雅弘に交代。健さんの職業は浅草界隈の建設業を取り仕切る鳶政一家の跡取りだが兵役で不在。その隙を突いて悪玉ヤクザ阿久津一家が工事利権を狙って工作を仕掛けて来る。断った鳶政が殺されるが、そんな時秀次郎が兵役から返ってくる。白い軍服姿がなかなかカッコいい。風間重吉は秀次郎とは親友だが、今は阿久津の代貸で、藤純子扮する文代は風間の妹というなかなか複雑な設定。ラストは阿久津の悪どいやり方に愛想を尽かした重吉が、秀次郎と並んで阿久津一家に殴り込むお馴染みのパターン。
秀次郎の一家がヤクザでなく鳶職という正業なのは、マキノが監督した「日本侠客伝」第1作と同じ設定で、木遣り唄が何度か流れたり、下町情緒を醸し出す演出タッチも「日本侠客伝」を思わせ、まさにマキノ節が堪能出来る。
純子と健さんが絡むシーンはそれほど多くはないが、印象的な名場面がいくつかある。特に、兵役から帰って来た秀次郎を見て文代がつい泣きそうになると、秀次郎が「おー泣く泣く泣く」とからかい、それに文代が「いじわる」と返すシーンが実に微笑ましくて楽しい。ラスト、殴り込みが終わり、警察に逮捕される秀次郎に文代がそっと着物をかけてあげるシーンも泣かせる。マキノ雅弘監督の名人芸とも言える演出が冴える秀作である。
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=JCiAeR3hUP8
日本侠客伝 斬り込み
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1967.09.15 上映時間:92分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、日下部五朗
監督:マキノ雅弘
脚本:笠原和夫
撮影:山岸長樹
美術:井川徳道
音楽:斎藤一郎
助監督:原田隆司
出演者:高倉健、藤純子、石山健二郎、大木実、長門裕之、金子信雄、渡辺文雄、潮健児、天津敏、南田洋子
「日本侠客伝」シリーズの第七作目。このシリーズはいつも主人公はヤクザではなく正業を営んでいる場合が多いのだが、本作では健さんは“腕斬り真三”の異名を持つ一匹狼の渡世人で、冒頭から健さんが渡世の義理で人を斬るシーンがあるのも珍しい。その後息子を連れて旅に出るのだが、子供が病気になり、石山健二郎扮するテキヤの源蔵一家に世話になる。純子は源蔵の娘で、やがて健さんと恋仲になり、健さんは東京で露天商を営みつつ、純子と結婚して息子と3人水入らずの世帯を持つ事となる。その後健さんは一家を立ち上げ、中村組の親分となって組員を従えるのだが、この辺り長門裕之ら子分たちとのやりとりを見ても、マキノが監督した「次郎長三国志」を思わせる。純子はさしずめ次郎長の恋女房お蝶といった所か。終盤の悪玉組への殴り込みも健さん単独でなく長門ら一家と一緒だし、殴り込みが終わった後も健さんは警察に捕まらず、純子も迎えに来て珍しいハッピーエンドの幕切れとなる。マキノ監督の演出も相変わらず粋で楽しめる作品になっている。
侠骨一代
製作:東映(東京撮影所)
封切日:1967.11.01 上映時間:92分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、吉田達
監督:マキノ雅弘
原作:富沢有為男
脚色:村尾昭、松本功、山本英明
撮影:星島一郎
音楽:八木正生
助監督:内藤誠
出演者:高倉健、藤純子、大木実、石山健二郎、志村喬、宮園純子、山本麟一、今井健二、名和宏、遠藤辰雄、天津敏
健さんの役名は伊吹竜馬。ヤクザではなくカタギだが曲がった事は大嫌いの暴れん坊である。その根性を気に入った志村喬扮する運送業の親方が束ねる坂本組に入る事になるのだが、坂本組の竜馬というのがなんだか笑える。純子は竜馬の母・たかと遊女のお藤の二役を演じている。お藤は竜馬に惚れるのだが、母とそっくりなお藤に竜馬は気後れして手が出せない。そんな竜馬に「好きなようにしてもいいんだよ」と誘いかけるお藤がとても艶っぽい。それでもお藤の髪にそっと触れただけで「お休みなさい」と帰る竜馬。健さんのこんなウブな純情ぶりも珍しい。
竜馬はやがて坂本組の中で持ち前の度胸と根性で出世して行くが、あくどい悪玉ヤクザの嫌がらせと悪だくみで資金も無くなった坂本組が窮地に陥った時、お藤が身を売って金を作ってくれた。ラストは竜馬が悪玉ヤクザの組に殴り込むいつものパターンとなるが、幕切れは満州に売られて行くお藤が船の上で牛乳を飲むシーン。これが色っぽい。純子をとても美しく、艶やかに描くマキノ演出が素晴らしい。マキノは女を描かせたら天下一品である。
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=jlIK0u2Ynqk
日本女侠伝 真赤な度胸花
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1970.01.09 上映時間:94分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、日下部五朗
監督:降旗康男
脚本:笠原和夫
撮影:古谷伸
音楽:八木正生
助監督:篠塚正秀
出演者:藤純子、高倉健、小沢栄太郎、石山健二郎、山本麟一、小松方正、山城新伍、橘ますみ、天津敏、名和宏、遠藤辰雄
「日本女侠伝 侠客芸者」に次ぐシリーズ2作目。今回はガラッと変わって明治末期の北海道を舞台とした、西部劇タッチのアクション編。純子は馬喰の娘として父の跡を継ぎ、健さんの助けを借りて悪のボス大野(天津敏)一家と闘う。殴り込みは健さんに任せた1作目と違って、今回の純子は拳銃にライフル担いで、警察署を占領した大野一家に健さんと一緒に殴り込みを行う。雄大な北海道の風景もあって、まさに西部劇だ。笠原和夫も楽しんでホンを書いている気がする。藤純子の珍しい洋装アクションものとして一見の値打ちはある。
しかしシリーズもので、これほど作品ごとに物語のタッチ、主人公のキャラクターがまるで異なるのも珍しい。
日本女侠伝 血斗乱れ花
製作:東映(京都撮影所)
封切日:1971.04.03 上映時間:107分 カラー/東映スコープ
企画:俊藤浩滋、日下部五朗
監督:山下耕作
脚本:野上龍雄
撮影:山岸長樹
音楽:渡辺岳夫
助監督:俵坂昭康
出演者:藤純子、津川雅彦、高倉健、山本麟一、水島道太郎、大木実、遠藤辰雄、天津敏、内田朝雄
シリーズ第4作目。前作「鉄火芸者」で1作目と同じ芸者を演じた純子は、今回は大阪船場の呉服商のカミさんから、その後は九州を舞台に、夫の遺志を継いで女一人で炭坑稼業に打ち込む肝っ玉姐さんを演じている。健さんは川船頭で純子に惚れ込む役。例によって純子の鉱山乗っ取りを図る大木実、遠藤辰雄ら悪玉一味の嫌がらせに耐えながらも、身内が次々と殺され、遂に健さんが怒りのドスを携え悪の一味に殴り込む。今回も殴り込みは「侠客芸者」と同じパターンで健さん一人。健さんの歌も流れ、ほとんど「昭和残侠伝」シリーズを観てるよう(笑)。健さんは拳銃で撃たれ、敵を倒すも重傷で、最後去って行く途中で純子の幻影を見た所でストップモーション。山下耕作監督だけあって、ラストに真っ赤な花が印象的に出て来る。何度かストップ・モーションを多用する等、演出にも工夫が凝らされている。天津敏が珍しく善玉役を演じているのが、シリーズを観続けて来るとなんだか笑えてしまう。
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=URpLCjvIl9M
(回想記)
高倉健と藤純子の共演作がまとめて観れる今回の5本立て上映会は、任侠映画全盛期を思わせるいい雰囲気で、当時を懐かしみ感慨に耽った観客も多かっただろう。特にマキノ雅弘が監督した3本は、純子のいい所を最高に引き出した名作である事を再認識させられた。
さて、シギノ大劇での上映会も残す所あと2回。有終の美を飾れるよう、メンバーの意気は軒昂であった。
DVD/ビデオソフト紹介
※次回プログラム 番外編第9回 「藤竜也のクレイジー・クールな世界」