番外編第7回 「ザ・ヤクザ 高倉健」

 
開催日: 1976年4月3日(土)

場所: シギノ大劇

上映開始: PM 10:30

テーマ: 庄内さんの無頼社主催番外編も第3弾となる。今回は高倉健特集。健さんと降旗康男監督との初顔合わせとなる「地獄の掟に明日はない」に始まり、マキノ雅弘監督作品が2本、降旗監督の「新・網走番外地」シリーズから1本、それに石井輝男監督と名脚本家・橋本忍という異色のタッグ「現代任侠史」と、なかなか面白い番組である。4月28日のシネマ自由区ラストショーに向けて、怒涛の番外編3連チャン第1弾である。

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(作品紹介)

 地獄の掟に明日はない

 製作:東映(東京撮影所)
 封切日:1966.10.30  上映時間:90分  カラー/東映スコープ
 企画:植木照男、矢部恒 
 監督:降旗康男 
 脚本:高岩肇、長田紀生 
 撮影:林七郎 
 音楽:八木正生 
 出演者:高倉健、十朱幸代、串田和美、今井健二、河津清三郎、佐藤慶、南田洋子、石橋蓮司、小林稔侍、三國連太郎

降旗康男監督のデビュー2作目にして、高倉健との初コンビ作。舞台は長崎。健さんはなんと原爆症で苦しんでいるヤクザという設定。明日をも知れぬ命ゆえの苦悩を漂わせたヤクザという難しい役柄を健さんは好演している。その幼友達の新聞記者(今井健二)がヤクザ撲滅の論陣を張って活動するという点も含め、ヤクザ映画には珍しい社会派的な味わいもある。健さん扮する滝田は十朱幸代と恋仲になり、依頼された殺しを請け負った後、この世界から足を洗おうと十朱と一緒に逃げようとするのだが、十朱の待つ港に向かう途中、敵のチンピラに刺されてしまう。このラスト・シークェンス、サングラスに口元を隠して港に急ぐ滝田の姿といい、遂に港に辿り着けず、十朱の乗る船が汽笛を鳴らして出港してしまうラストシーンといい、ジャン・ギャバン主演の名作「望郷」のまるまるいただきであるのが映画ファンとしてはニヤリとさせられる。後に多くの秀作を生み出す事になる、降旗監督と高倉健コンビの最初の作品として記憶に留めたい異色作である。なおKINENOTEのあらすじはラストが間違ってるので注意。

 

 ごろつき

 製作:東映(東京撮影所)
 封切日:1968.10.12  上映時間:92分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、矢部恒 
 監督:マキノ雅弘 
 脚本:石松愛弘 
 撮影:飯村雅彦 
 音楽:渡辺岳夫
 助監督:伊藤俊也
 出演者:高倉健、菅原文太、大木実、吉村実子、石山健二郎、田中春男、渡辺文雄、三益愛子、金子信雄、曽根晴美

今回は健さんは珍しくヤクザでなく、炭鉱が廃鉱になって、生活の為友人の菅原文太と一緒に上京し、キック・ボクサーを目指すというお話。当時は”キックの鬼”沢村忠が大活躍するキック・ボクシングがブームで、それにあやかって作られた異色作である。沢村忠も本人役で出演している。健さんと文太が流しをするシーンもあり、文太のギターで健さんが「網走番外地」と「唐獅子牡丹」を歌う所は笑える。健さんのボクシング・シーンもなかなか迫力があり、連戦連勝でチャンピオンを倒すシーンもある。このままスポーツ・ドラマで行くかと思ったのに、最後は悪辣なヤクザの暴虐に堪忍袋の緒が切れ、日本刀で殴り込むといういつものヤクザ映画になる(いつの間に刀の使い方覚えた?(笑))。マキノらしからぬ珍品と言えよう。まあ歌うシーンも含め、健さんファンへのサービス作品として見れば楽しめる作品ではある。

 

 昭和残侠伝 死んで貰います

 製作:東映(東京撮影所)
 封切日:1970.09.22  上映時間:92分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、吉田達 
 監督:マキノ雅弘 
 脚本:大和久守正 
 撮影:林七郎 
 音楽:菊池俊輔 
 助監督:澤井信一郎 
 出演者:高倉健、藤純子、池部良、中村竹弥、加藤嘉、 荒木道子、八代万智子、山本麟一、長門裕之、津川雅彦

高倉健主演の「昭和残侠伝」シリーズの中でも屈指の秀作。健さん扮する花田秀次郎は、生まれは東京下町で古い暖簾を誇る料亭「喜楽」の跡取りだったが、父が後妻をめとった事で居辛くなり家を飛び出し、いつの間にか渡世人になったという設定。無一文で雨をしのいでいた時に、芸者になったばかりの幾江(藤純子)と出会い、以後二人が徐々に愛を育んで行くプロセスを情感豊かに描写するマキノ演出はさすが。「喜楽」は板前の風間重吉(池部良)と小父の寺田友之肋(中村竹弥)が守っており、出所した秀次郎は「喜楽」で板前として、但し失明している母には自分の身を恥じ偽名で働く事となる。やがて「喜楽」を乗っ取ろうとする新興ヤクザの悪だくみで「喜楽」は窮地に陥り、恩人の寺田も殺された秀次郎は遂に怒りを爆発させ、重吉と共に相手の組に殴り込むというラストはいつものパターン。殴り込みを知った幾江が秀次郎に語りかける「止やしません。だけど死なないで、そして今度は私だけの義理と情けに生きて欲しい」の言葉は任侠映画史に残る名セリフだろう。随所にマキノ調の粋といなせな演出が光る、何度観ても心に沁みる名作である。

 予告編  https://www.youtube.com/watch?v=O31EWmOa4_c

 

 新網走番外地 吹雪の大脱走

 製作:東映(東京撮影所)
 封切日:1971.12.29  上映時間:110分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、矢部恒、寺西国光 
 監督:降旗康男 
 原案:伊藤一 
 脚本:大和久守正、降旗康男 
 撮影:林七郎 
 音楽:八木正生 
 助監督:福湯通夫 
 出演者:高倉健、星由里子、黒沢年男、田中邦衛、藤田進、南利明、山本麟一、今井健二、水島道太郎、室田日出男、安藤昇

新・網走番外地シリーズ7作目。今回は久しぶりに網走刑務所内を舞台にして、監獄ボス熊沢(山本麟一)率いる悪玉グループとの対立・抗争が描かれる。田中邦衛が久しぶりにシリーズ登場。熊沢たちが悪徳看守と組んで物資を横流ししたり暴動を扇動したり、殺人までやらかしたりとまあ無法状態。星由里子が彩りを添える。ラストは仲間を次々と殺された健さんが、いつものように敵陣に殴り込んで悪をぶった切り、馬に乗って雪原を去って行く。題名に偽りありで、大脱走シーンは登場しない。

   

 現代任侠史

 製作:東映(京都撮影所)
 封切日:1973.10.27  上映時間:96分  カラー/東映スコープ
 企画:橋本慶一、 日下部五朗、 佐藤雅夫 
 監督:石井輝男 
 脚本:橋本忍 
 撮影:古谷伸 
 音楽:木下忠司 
 助監督:皆川隆之 
 出演者:高倉健、安藤昇、梶芽衣子、成田三樹夫、夏八木勲、郷^治、田中邦衛、辰巳柳太郎、小池朝雄、内田朝雄

最後は1973年、1月公開の「仁義なき戦い」が大ヒットして東映が実録路線に大きく舵を切り、任侠映画の製作が激減したこの年の10月に公開された、任侠映画の終焉を告げるかのような作品。実際、健さんはその2か月前、実録路線の「山口組三代目」に出演しており、この年、本作以外に任侠映画には出演していない。
本作の脚本はなんと巨匠橋本忍。橋本氏の任侠映画執筆は後にも先にもこれ1本きり。健さんは元ヤクザの幹部だったが今は足を洗って銀座の寿司屋の主人となっているという設定。
お話は東京進出を狙う関西の大手暴力団と、それに反撥する、健さんが元いた松田組との抗争が勃発し、郷^治扮する組長は単身殴り込みで死に、松田組の幹部も次々と殺され、仲裁を図った安藤昇も殺され、最後に健さんが父の形見の日本刀をひっさげ悪玉のいる屋敷に殴り込んで斬りまくるという、毎度お馴染みのヤクザ映画パターン。梶芽衣子がルポライター役で健さんに恋心を抱き、殴り込みを知って止めようとするが、それを振り切って健さんが出て行く辺りも、健さんと藤純子共演作で何度も見たような光景だ。橋本忍でなくても、この位の話なら書ける脚本家は東映にはいくらでもいると思うが。
思えば、昭和38年の「人生劇場・飛車角」で任侠路線がスタートした後、文芸原作ものでない、任侠映画の典型パターンの最初の作品「昭和侠客伝」を監督したのも石井輝男だった(脚本も)。その石井監督が実質最後の任侠映画を監督したというのも、不思議な縁である。ラストシーンが、健さんが銃撃され、倒れる寸前でストップ・モーションとなる異色の終わり方であるのも、いかにも石井監督らしい。
冒頭、ポスターにもある、パンナム機から降りて来る健さんの姿が登場するが、手に日本刀を持っているのに仰天する。武器に類するものは機内に持ち込めないはずだが。タランティーノの「キル・ビル」に飛行機内の座席に刀ホルダーがあってそれに刀を置いているシーンがあったが、あれは本作を参考にしたのかも知れない(笑)。

 予告編  https://www.youtube.com/watch?v=w4TNrRWj4Q0


(回想記)

 映画スターとして圧倒的な存在感を示し、東映任侠映画の隆盛を支えた高倉健の代表作、異色作を集めた本特集。シギノ大劇でのシネマ自由区上映会も今月で終了という情報が伝わった事もあってか、当上映会常連や多くの健さんファンも詰めかけ、まずまずの入りであった。翌週も高倉健+藤純子特集の番外編上映会があり、上映会終了に向けての盛り上がりが感じられた一夜であった。

 DVD/ビデオソフト紹介

   

 ※次回プログラム  番外編第8回  「花と長ドス 健と純子の世界」