番外編第1回 「藤純子 おんなの詩(うた)

 
開催日: 1975年9月20日(土)

場所: シギノ大劇

上映開始: PM 10:40

テーマ: さて、前回までは上映作品のテーマ、及び番組編成はシネマ自由区のメンバー全員の合議により決定していたのだが、スタートから1年を経過し、今後は月1回の定例上映会以外に、各メンバーが単独で企画を立て、作品を自由に選び上映する、いわゆる「番外編」上映会をやろうという事になった。従ってポスターに掲載する連絡先電話番号も主催者個人、主催者の名称も自分で考えたのものでいいという事となった。まずはメンバーの細川君企画による「藤純子特集」からスタート。主催者名称も「緋牡丹亭」とユニーク。上映作品にも企画者自身の好みが反映されており、メンバーがどんなスターや監督のファンであるかもよく分かる。赤字になった場合は自己負担というリスクも背負うが、利益が出れば全額本人のフトコロに入るというメリットもある。もっとも、好きな事がやれるのなら採算度外視で決行する者もいるだろうが。ただ開催日が前回の鈴木清順特集の翌週で、2週連続上映となりなかなかハードスケジュール。成功するかどうか、試される上映会となった。

当日プログラム(PDF)  ※ご覧になるには Adobe.Readerのインストールが必要です。

(注)プログラムはすべてB4サイズです。印刷したい場合はB4が印刷出来るプリンターなら問題ありませんが、A4プリンターであれば、B4→A4への縮小プリントを行ってください。

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(作品紹介)

 緋牡丹博徒

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1968.09.14 上映時間:98分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、日下部五朗、佐藤雅夫 
 監督:山下耕作 
 脚本:鈴木則文 
 撮影:古谷伸 
 音楽:渡辺岳夫 
 美術:雨森義充 
 助監督:本田達男
 出演者:藤純子、高倉健、若山富三郎、待田京介、大木実、清川虹子、山城新伍 

藤純子の記念すべき主演第1作。…と言われているが、実はその前に「尼寺㊙物語」(68)に主演しており、こちらが主演第1作である。ただし興行的にはコケてしまって話題にもならなかったので、無かった事になっている(笑)。で、この作品の誕生については諸説あり、まず1説は、当時大映で江波杏子主演の「女賭博師」シリーズがヒットしていたので、岡田茂東映京撮所長がこれに負けじと「ウチも純子主演で女の任侠映画を作れ」と俊藤浩滋プロデューサーに命じ、そこで俊藤氏が鈴木則文らに何本か企画を立てさせ、その中の1本が鈴木則文が書いた「緋牡丹博徒」だった。そして岡田所長が「これで行こう」とゴーサインを出して製作が決まった(山根貞男・俊藤浩滋著「任侠映画伝」)。もう一つは、藤純子の大ファンだった鈴木則文が、前作「忍びの卍」が大コケでホサれていた時に、藤純子主演を想定して映画化のあてもなくコツコツと書いた脚本が先に出来ていて、それが前述の岡田所長の女の任侠映画製作方針で日の目を見た、という事である。個人的には、後者の方が正しいと思っている。鈴木則文は以後最終作を除いて全ての「緋牡丹博徒」シリーズの脚本を書いている。まさに鈴木則文こそ、このシリーズの産みの親であるのは間違いない。映画自体も、山下監督の随所に花をあしらった演出もあって見事な出来だった。興行的にも大当たりで、以後純子は東映任侠映画の新しいスターとして大活躍をする事となるのである。

予告編   https://www.youtube.com/watch?v=LyaImUCM7cw  (※ Internet Explorerでは閲覧できません。 Microsoft Edgeでアクセスしてください)

 

 博奕打ち 流れ者

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1970.04.18 上映時間:100分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、橋本慶一 
 監督:山下耕作 
 脚本:鳥居元宏、志村正浩 
 撮影:鈴木重平 
 音楽:渡辺岳夫 
 助監督:俵坂昭康
 出演者:鶴田浩二、若山富三郎、藤純子、水島道太郎、待田京介、天津敏、北林早苗
 

「博奕打ち」シリーズ8作目で、傑作「博奕打ち・総長賭博」以来の山下耕作監督作。今回は脚本が笠原和夫でない為か、パターン通りの任侠映画になっている。冒頭、いつも最後に倒される悪役専門の天津敏が珍しく、渡世の義理で鶴田浩二と肩を並べて敵の組に殴り込むシーンが登場するので、おお、今回は善玉役か、と思っていたら、途中で逃げて、その恥を一緒に殴り込んだ水島道太郎に被せて、数年後には悪玉の親分に昇格していた。やっぱりね(笑)。その後も天津は卑怯な手を使ったり、咎める善玉親分を惨殺したりとやりたい放題。で、最後には鶴田に倒されるいつものパターンとなる。憎たらしい悪玉を演じさせたら天津敏は天下一品だ。
で、藤純子は水島の妹の深川芸者役。鶴田と恋仲となるが、この時期では純子の相手役は高倉健がほとんどで、このパターンは本上映会のNo.11に登場した「明治侠客伝・三代目襲名」以来ではないだろうか。


 女渡世人 おたの申します

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1971.07.31 上映時間:103分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋 日下部五朗 
 監督:山下耕作 
 脚本:笠原和夫 
 撮影:山岸長樹 
 音楽:渡辺岳夫 
 助監督:篠塚正秀 
 出演者:藤純子、菅原文太、島田正吾、三益愛子、待田京介、遠藤辰雄、金子信雄


こちらは「博奕打ち・総長賭博」と同じ、脚本・笠原和夫、監督・山下耕作のコンビ作品で、「緋牡丹博徒」シリーズとはまた違った、女やくざシリーズ。二人のコンビは「総長賭博」と「博奕打ち・いのち札」でやくざ映画批判的な方向に行ったのだが、これは従来の任侠路線に戻って来たような作品。しかし笠原らしさは感じられる。いくつかいいセリフがあって、菅原文太が純子に「姐さん、やくざは日陰の花だ。日向に咲こうなんて考えたら、てめえが惨めになるだけですよ。でもどんなに日陰に咲こうと、おめえさんの花の美しさはあっしが見てますよ」と語りかけるシーンは作品中の白眉。それとこの作品には純子が指を詰めるシーンがあるのも異色。多分後にも先にもこの作品だけだろう。ラストはお決まりの殴り込みだが、ここでも従来の純子主演やくざ映画と違って、純子は相手の返り血を浴びたり、自分も斬られたりで血まみれになって行く。純子が警察に捕まり連行されて行くシーンもこれまではなかったと思う。それを群衆が冷たい視線で見ている。笠原はインタビューで、「アナーキズムやくざ映画を作ろうとした」と語っているが、まさにこのラストはあの藤純子が大量に人殺しをし、警察に逮捕されるという、もはやそれまでの正義のヒロイン像をかなぐり捨てたアナーキーさに満ちているという点で異色の純子映画になっていた。笠原はこの頃から「もうやくざ映画は書きたくない」と言っていたそうだ。ある意味、正統任侠映画の終焉を告げるような作品とも言える。この翌年、藤純子は引退する事となる。


 日本侠客伝 昇り龍

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1970.12.03 上映時間:117分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、日下部五朗 
 監督:山下耕作 
 脚本:笠原和夫 
 原作:火野葦平 
 撮影:吉田貞次 
 音楽:斎藤一郎 
 助監督:本田達男 
 出演者:高倉健、藤純子、中村玉緒、片岡千恵蔵、鶴田浩二、荒木道子、遠藤辰雄、天津敏 

マキノ雅弘監督による「日本侠客伝 花と龍」の続編…と言うより、「花と龍」を、藤純子扮する蝶々牡丹のお京に焦点を当てて再構築した作品と言った方が正しい。これも笠原和夫脚本。お京は健さん扮する金五郎を愛してしまうが、金五郎には妻がいる。それでも金五郎ヘの思いを捨てきれないお京は金五郎の体に、一生一代の刺青「昇り竜」を彫り込み、龍の鱗の一部に「京」の文字をひっそり入れる。これがせめてもの金五郎への愛の証しなのである。この切ない恋心には泣ける。そして終盤は、自分の命の長くないことを知ったお京が金五郎と温泉宿で会い、最後の力を振り絞って、あの「京」の文字を消す。金五郎を彼の妻に返そうという事である。そしてお京は金五郎の腕の中で死んで行く。このシーンには泣けた。任侠映画の中に花咲く究極のラブストーリーである。ラストを、お決まりの殴り込みで終わらせないのも異色である。藤純子が東映任侠映画において、最も美しい輝きを見せた名作だと言えるだろう。

予告編   https://www.youtube.com/watch?v=mP86En3o5FA  (※ Internet Explorerでは閲覧できません。 Microsoft Edgeでアクセスしてください)


 緋牡丹博徒 お命戴きます

 製作:東映(京都撮影所) 
 封切日:1971.06.01 上映時間:93分  カラー/東映スコープ
 企画:俊藤浩滋、日下部五朗 
 監督:加藤泰 
 脚本:大和久守正、鈴木則文、加藤泰 
 撮影:わし尾元也 
 音楽:木下忠司 
 助監督:篠崎正秀 
 出演者:藤純子、鶴田浩二、待田京介、若山富三郎、河津清三郎、嵐寛寿郎

シリーズ中で鈴木則文が脚本に参加した最後の作品。加藤泰監督によるシリーズ最後の作品でもある。今回は珍しく公害問題を取り上げているが、ちょっと任侠映画にはそぐわない気がする。いつもだったら必ず最後の殴り込みに同行する助っ人役の鶴田浩二が早々と死んでしまうのも異色。その為敵陣への殴り込みはお竜一人という事になる。しかしいつもながらの加藤監督のトレードマーク、超ローアングル撮影など、映像は素晴らしい。鶴田の代わりと言うか、本作では加藤作品常連の汐路章扮する“コブ安”がお竜への密かな思いを募らせ、ラスト間際に、瀕死のコブ安がお竜の腕の中で「親分さん、貴女は綺麗だ…」と呟いて死んで行くシーンは、これまでバイプレーヤーとして加藤作品を支えて来た汐路章への、最高のプレゼントと言えるかも知れない。簪を投げ、ザンバラ髪となったお竜が立ち回るシーンは艶やかで美しい。

(回想記)
 常連客にしても連チャンとなるのでちょっと心配したが、ファンなら見たければどんな状況でも来てくれるだろう。それと第11〜12回の東映任侠映画特集時に今回の上映会のポスターを掲示、プログラムにも宣伝を入れていた事もあって、まずまずは成功と言える企画であった。

 

 
 DVD/ビデオソフト紹介




   

※次回プログラム 番外編第2回 「渡哲也・無頼の軌跡」