落ちこぼれベストテン(日本映画編)

 以下は、以前に私のミニコミで、仲間たちと一緒に選出した「落ちこぼれベストテン」の記録です。このベストテンの選考基準は、日本映画“キネマ旬報”のその年のべストテンに入らなかったけれども、選外にするには惜しい埋もれた秀作・佳作が対象であり、これらについて参加者に10本づつ選出してもらい、通常と同様に1位から順に10点、9点と点数をつけて集計したものです。いわば番外ベストテンとでも言うべきでしょうか。きっかけは、今ではファンの間でカルト的な人気のある作品が、当時はまったくベストテンで評価されていなかったケースが多々あり、これらを再評価してみようという所から始まったわけであります。どの年から始めるかについては、あまり過去では見ていない人も多いので、とりあえず今でも人気のある作品が比較的多かった昭和38年からということになり、発表の年の前々年、昭和52年までの15年間までについて選考を行いました。内容的にはかなり濃いベストテンになったのではないかと自負しております。左のインデックスをクリックすると該当の年度にスキップします。
 
では、ごゆっくりご覧ください。(最後の選後評もお読みください) <文中敬称略>

        昭和38年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 関の弥太ッペ

東映・山下耕作

(88)

0

(1) にっぽん昆虫記

 (2) 十三人の刺客

東映・工藤栄一

(56)

31位

5

(2)

天国と地獄

 (3) 野獣の青春

日活・鈴木清順

(51)

0

(3)

五番町夕霧楼

 (4) 真田風雲録

東映・加藤 泰

(46)

19位

15

(4)

太平洋ひとりぼっち

 (5) 悪 太 郎

日活・鈴木清順

(40)

0

(5)

武士道残酷物語

 (6) 夜霧のブルース

日活・野村 孝

(34)

0

(6)

しとやかな獣

 (7) 江分利満氏の優雅な生活

東宝・岡本喜八

(32)

12位 72

(7)

彼女と彼

 (8) 関東無宿

日活・鈴木清順

(27)

0

(8)

 (9) 恐 喝

東映・渡辺裕介

(21)

0

(9)

白と黒

(10) 人生劇場・飛車角

東映・沢島 忠

(17)

0

(10)

非行少女

(10) 狼の王子

日活・舛田利雄

(17)

0

    

(次) 下町の太陽

松竹・山田洋次

(14)

0

    

(選評)やはり、股旅映画の傑作として今でもファンの多い「関の弥太ッペ」が堂々、ダントツの第1位。しかも同じく根強い人気がある「十三人の刺客」を32点も引き離してのトップである。他にも鈴木清順、加藤泰などが今でもカルト的な人気を誇る作品を発表しており、私見であるがこの年が日本プログラム・ピクチャー史上の一つの転換期ではないかと思う。ところがキネ旬ベストテンでは上記の如く、これらの傑作がことごとく無視されていた。今では考えられないことではある。 (参加者10名)

 

        昭和39年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 赤いハンカチ

日活・舛田利雄

(43)

0

(1) 砂の女

 (2) 狼と豚と人間

東映・深作欣二

(41)

0

(2)

怪 談

 (3) 車夫遊侠伝・喧嘩辰

東映・加藤 泰

(36)

0

(3)

香 華

 (4) 宮本武蔵・一乗寺の決闘

東映・内田吐夢

(33)

26位 9

(4)

赤い殺意

 (5) 執 炎

日活・蔵原惟繕

(30)

32位

5

(5)

飢餓海峡

 (5) ああ爆弾

東宝・岡本喜八

(30)

19位

14

(6)

越後つついし親不知

 (7) 幕末残酷物語

東映・加藤 泰

(29)

0

(7)

傷だらけの山河

 (8) 肉体の門

日活・鈴木清順

(22)

0

(8)

甘い汗

 (8) 帝銀事件・死刑囚

日活・熊井 啓

(22)

12位

67

(9)

仇 討

(10) 「女の小箱」より 夫が見た

大映・増村保造

(19)

24位

10

(10)

われ一粒の麦なれど

(次) 馬鹿まるだし

松竹・山田洋次

(18)

0

    

(選評)深作欣二バイオレンス・アクションの原点とも言うべき「狼と豚と人間」が登場。しかし1位は当時絶頂だった日活ムードアクションの傑作が占めた。今見れば、これは罠にはめられた主人公の犯人探しミステリーとしてもよく出来ている。しかしキネ旬ではやはりと言うか、1〜3位ことごとく0点であった。この年は、選外にも私のお薦めとして、集団時代劇の秀作「忍者狩り」「十兵衛暗殺剣」、前田陽一のデビュー作「にっぽんぱらだいす」などの注目作があった。 (参加者10名)

 

        昭和40年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 刺青一代

日活・鈴木清順

(69)

0

(1) 赤ひげ

 (2) 明治侠客伝・三代目襲名

東映・加藤 泰

(68)

0

(2)

東京オリンピック

 (3) 剣 鬼

大映・三隅研次

(44)

0

(3)

日本列島

 (4) 網走番外地・望郷編

東映・石井輝男

(33)

0

(4)

にっぽん泥棒物語

 (5) 股旅・三人やくざ

東映・沢島 忠

(31)

0

(5)

証人の椅子

 (6) 春 婦 伝

日活・鈴木清順

(22)

0

(6)

冷飯とおさんとちゃん

 (6) 日本侠客伝・関東編

東映・マキノ雅弘

(22)

0

(7)

恐山の女

 (8) 美しさと哀しみと

松竹・篠田正浩

(20)

16位

36

(8)

ブワナ・トシの歌

 (8) 霧 の 旗

松竹・山田洋次

(20)

20位

17

(9)

悪 党

(10) 清作の妻

大映・増村保造

(19)

11位

52

(10)

水で書かれた物語

(次) 悪太郎伝・悪い星の下でも

日活・鈴木清順

(15)

0

    

(次) 宮本武蔵・巌流島の決闘

東映・内田吐夢

(15)

11位

52

    

(選評) 鈴木清順と加藤泰の、どちらも伝説的な任侠映画史上の傑作がデッドヒートを繰り広げ、なんと1点差で清順が1位。他にも「番外地」「侠客伝」など任侠映画の佳作がランクイン。やはりこの年あたりから任侠映画が隆盛を見たことがよく分かる。それにしても驚くのは、このテンの1位から7位までがことごとくキネ旬で1点も獲得していない(つまり誰一人テンに選んでいない)ことである。こんな面白い作品群を見落としておいて、当時の評論家たちは日本映画は不作だなんてよくまあ言えたものである。(参加者10名)

 

        昭和41年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) けんかえれじい

日活・鈴木清順

(88)

25位

9

(1) 白い巨塔

 (2) 沓掛時次郎・遊侠一匹

東映・加藤 泰

(65)

0

(2)

人類学入門

 (3) 東京流れ者

日活・鈴木清順

(61)

0

(3)

紀ノ川

 (4) なつかしい風来坊

松竹・山田洋次

(43)

13位

39

(4)

湖の琴

 (5) 男の顔は履歴書

松竹・加藤 泰

(36)

0

(5)

他人の顔

 (6) 893愚連隊

東映・中島貞夫

(32)

22位

10

(6)

アンデスの花嫁

 (7) あこがれ

東宝・恩地日出夫

(30)

19位

20

(7)

本 能

 (8) 骨までしゃぶる

東映・加藤 泰

(21)

0

(8)

こころの山脈

 (9) 帰らざる波止場

日活・江崎実生

(16)

0

(9)

白昼の通り魔

(10) 赤い天使

大映・増村保造

(15)

28位

6

(10)

女の中にいる他人

(次) 嵐を呼ぶ男

日活・舛田利雄

(13)

0

    

(選評) この年も前年と同じく、清順と加藤泰の一騎打ち。そして2年連続清順が1位に輝いた。得点88点は「関の弥太ッペ」と並ぶハイアベレージ。この年、清順は3本、加藤泰は4本の作品を発表し、うちそれぞれ2本、3本が当ベストテンに入選。山田洋次が初期の傑作を発表。今では日本映画史上の秀作として評価の高い「けんかえれじい」をキネ旬で評価したのは何と佐藤忠男氏ただ一人(2位)。キネ旬評論家諸氏の目は節穴だったのか! (参加者11名)

 

        昭和42年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 紅の流れ星

日活・舛田利雄

(88)

0

(1) 上意討ち

 (2) 拳銃は俺のパスポート

日活・野村 孝

(60)

0

(2)

人間蒸発

 (3) 侠骨一代

東映・マキノ雅弘

(27)

0

(3)

日本のいちばん長い日

 (4) みな殺しの拳銃

日活・長谷部安春

(26)

0

(4)

乱れ雲

 (4) 千曲川絶唱

東宝・豊田四郎

(26)

17位

26

(5)

華岡青洲の妻

 (6) 日本春歌考

松竹・大島 渚

(24)

11位

69

(6)

智恵子抄

 (7) 夜霧よ今夜も有難う

日活・江崎実生

(23)

0

(7)

愛の渇き

 (8) 組織暴力

東映・佐藤純弥

(22)

25位

13

(8)

あかね雲

 (8) 殺しの烙印

日活・鈴木清順

(22)

36位

2

(9)

なつかしき笛や太鼓

(10) 殺人狂時代

東宝・岡本喜八

(21)

0

(10)

忍者武芸帖

(次) 非行少年・陽の出の叫び

日活・藤田繁矢

(19)

18位

21

    

(選評) 渡哲也の最高傑作「紅の流れ星」がこれまた88点という高得点で独走。この年の特徴としては宍戸錠主演の日活ハードボイルドの佳作が3本もランク入りしていること。他にも「組織暴力」「殺人狂時代」ランク外で市川雷蔵主演「ある殺し屋」などと、なぜかこの年は和製ハードボイルドの当り年の感がある。こういった傾向はキネ旬ベストテンを見ているだけでは到底見えてこない。当ベストテンを行う意義はこうした点からも十分あると言えるだろう。 (参加者11名)

 

        昭和43年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 博打ち・総長賭博

東映・山下耕作

(62)

0

(1) 神々の深き欲望

 (1) 無頼・人斬り五郎

日活・小沢啓一

(62)

0

(2)

肉 弾

 (3) ひとり狼

大映・池広一夫

(61)

0

(3)

絞死刑

 (4) みな殺しの霊歌

松竹・加藤 泰

(37)

24位

10

(4)

黒部の太陽

 (5) 大幹部・無頼

日活・小沢啓一

(34)

0

(5)

 (6) 縄張<しま>はもらった

日活・長谷部安春

(33)

0

(6)

初恋・地獄編

 (7) 恐喝こそわが人生

松竹・深作欣二

(25)

0

(7)

日本の青春

 (8) めぐりあい

東宝・恩地日出夫

(21)

23位

11

(8)

燃えつきた地図

 (9) 無頼より・大幹部

日活・舛田利雄

(18)

0

(9)

人生劇場・飛車角と吉良常

(10) 緋牡丹博徒・一宿一飯

東映・鈴木則文

(17)

0

(10)

吹けば飛ぶよな男だが

(10) 兄貴の恋人

東宝・森谷司郎

(17)

30位

6

    

(次) 小さなスナック

松竹・斎藤耕一

(15)

47位

1

    

(次) 無頼・黒匕首

日活・小沢啓一

(15)

0

    

(選評) 東映任侠映画の頂点とでも言うべき秀作「総長賭博」がやはりと言うかベストワン。同点で渡哲也作品が2年連続首位。この「無頼」シリーズからなんと3本がベストテン入り。次点にも1本入っており、同シリーズの完成度の高さを示している。いわゆる日活ニューアクションの先駆けとなった点でも、このシリーズは評価されて良い。ちなみにこれら4本の脚本はすべてあの「十三人の刺客」等の池上金男(前年の「紅の流れ星」も池上脚本)。選外だが、あの高畑勲(監督)+宮崎駿コンビの最初の傑作「太陽の王子・ホルスの大冒険」もこの年に公開されている。(参加者11名)

 

        昭和44年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 緋牡丹博徒・花札勝負

東映・加藤 泰

(66)

23位

20

(1) 心中天網島

 (2) 喜劇・女は度胸

松竹・森崎 東

(65)

15位

48

(2)

私が棄てた女

 (3) 俺たちの荒野

東宝・出目昌伸

(59)

18位

37

(3)

少 年

 (4) 野獣を消せ

日活・長谷部安春

(51)

0

(4)

かげろう

 (5) 日本暴力団・組長

東映・深作欣二

(28)

34位

10

(5)

橋のない川

 (6) 日本暗殺秘録

東映・中島貞夫

(25)

38位

8

(6)

男はつらいよ

 (7) 人 斬 り

大映・五社英雄

(19)

14位

49

(7)

ベトナム

 (8) 二人の恋人

東宝・森谷司郎

(18)

23位

20

(8)

新宿泥棒日記

 (8) 処女ゲバゲバ

若松プロ・若松孝二

(18)

0

(9)

続・男はつらいよ

(10) 昭和残侠伝・唐獅子仁義

東映・マキノ雅弘

(16)

0

(10)

風林火山

(次) 盲 獣

大映・増村保造

(15)

31位

12

    

(次) 落葉とくちづけ

松竹・斎藤耕一

(15)

-

0

    

(次) いそぎんちゃく

大映・弓削太郎

(15)

0

    

(選評) 加藤泰が初の1位。新人森崎東がデビュー作でいきなり1位に1点差。3位にも新人出目昌伸の爽やかな秀作が続く。この年の東宝には出目以外にも西村潔、山本迪夫、浅野正雄と続々新人監督が誕生、一歩先に出ていた森谷司郎も含めて東宝ニューシネマとでも言うべき流れが出来つつあったのだが、いつの間にか消えてしまったのは残念。なおこの年あたりからキネ旬ベストテンの選考者に若手評論家の参加が目立ち、そのせいか上記の如くプログラム・ピクチャー群にもある程度の得票が集まるようになって来た。 (参加者12名)

 

        昭和45年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 緋牡丹博徒・お竜参上

東映・加藤 泰

(66)

17位

35

(1) 家 族

 (2) 斬り込み

日活・澤田幸弘

(61)

30位 14

(2)

戦争と人間

 (3) 反逆のメロディ

日活・澤田幸弘

(58)

23位

24

(3)

どですかでん

 (4) 野良猫ロック/セックスハンター

日活・長谷部安春

(46)

38位

8

(4)

エロス+虐殺

 (5) 女子学園・悪い遊び

日活・江崎実生

(27)

26位

19

(5)

地の群れ

 (6) 野良猫ロック/ワイルドジャンボ

日活・藤田敏八

(26)

57位

2

(6)

無 常

 (7) 昭和残侠伝・死んで貰います

東映・マキノ雅弘

(25)

31位

11

(7)

影の車

 (8) 野獣都市

東宝・福田 純

(22)

0

(8)

男はつらいよ・望郷編

 (8) 喜劇・あ丶軍歌

松竹・前田陽一

(22)

32位

10

(9)

橋のない川・第2部

(10) 高校さすらい派

松竹・森崎 東

(21)

28位

17

(10)

裸の十九才

(10) やくざ絶唱

大映・増村保造

(21)

21位

25

    

(次) 赤頭巾ちゃん気をつけて

東宝・森谷司郎

(17)

15位

48

    

(選評) 2年連続、加藤泰の「緋牡丹博徒」が首位。同一シリーズが連続首位を獲得したのは後にも先にもこれだけである。同シリーズが如何に優れたシリーズであるかの証左であろう。この年、日活ニューアクションが一気に開花。なんと2〜6位までを独占。若い作家たちの台頭には目を見張るものがあった。ちなみに、当ベストテンの作品のうち、キネ旬でで0点のものは1本だけというのも面白い傾向である。  (参加者12名)

 

        昭和46年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 博打ち・いのち札

東映・山下耕作

(58)

50位

7

(1) 儀 式

 (1) 遊 び

大映・増村保造

(58)

16位

54

(2)

沈 黙

 (3) 関東破門状

日活・小沢啓一

(44)

70位

1

(3)

婉という女

 (4) 喜劇・女生きてます

松竹・森崎 東

(43)

15位

58

(4)

戦争と人間・第2部

 (5) 不良少女魔子

日活・蔵原惟二

(40)

40位

10

(5)

いのちぼうにふろう

 (6) 流血の抗争

日活・長谷部安春

(39)

58位

4

(6)

真剣勝負

 (7) 関東幹部会

日活・澤田幸弘

(34)

40位

10

(7)

やさしいにっぽん人

 (8) 喜劇・女は男のふるさとョ

松竹・森崎 東

(26)

23位

27

(8)

男はつらいよ・寅次郎恋歌

 (9) 現代やくざ・血桜三兄弟

東映・中島貞夫

(22)

47位

8

(9)

書を捨てよ町へ出よう

 (9) 水俣-患者さんとその世界

東プロ・土本典昭

(22)

13位

80

(10)

八月の濡れた砂

(次) 野良猫ロック/暴走集団'71

日活・藤田敏八

(20)

53位

5     

(選評) この年、大映が倒産、日活も製作規模縮小、ポルノ路線に転換し、勝新太郎、石原裕次郎、渡哲也、吉永小百合といったスターたちが相次いで活躍の場を失った。また東映では任侠映画の華、藤純子が引退、日本映画(特にプログラム・ピクチャー)の流れが大きく変わろうとしていた。そんな中、大映最後の傑作「遊び」と正統任侠映画最後(?)の傑作「いのち札」が仲良く1位。日活ニューアクションも最後の輝きを示して4本入選。そのニューアクションから「八月の濡れた砂」がキネ旬に入選。そして上の表を見れば分かる通り、当ベストテンからキネ旬0点の作品が遂になくなった。一昨年あたりから目立ち始めた、キネ旬ベストテンのプログラム・ピクチャー志向がこれらの結果からもよく分かるであろう。 (参加者12名)

 

        昭和47年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 人斬り与太・狂犬三兄弟

東映・深作欣二

(70)

20位

29

(1) 忍ぶ川

 (2) 現代やくざ・人斬り与太

東映・深作欣二

(52)

43位

6

(2)

軍旗はためく下に

 (2) 女囚701号・さそり

東映・伊藤俊也

(52)

12位

73

(3)

故 郷

 (4) 牝猫たちの夜

日活・田中 登

(41)

32位

15

(4)

旅の重さ

 (5) 人生劇場/青春・愛欲・残侠編

松竹・加藤 泰

(39)

14位

68

(5)

約 束

 (6) 濡れた唇

日活・神代辰巳

(31)

12位

73

(6)

男はつらいよ・柴又慕情

 (7) 喜劇・女売り出します

松竹・森崎 東

(28)

15位

58

(7)

海軍特別年少兵

 (8) 女郎市場

日活・曽根中生

(24)

41位

7

(8)

一条さゆり・濡れた欲情

 (8) 子連れ狼・三途の川の乳母車

東宝・三隅研次

(24)

38位

10

(9)

サマー・ソルジャー

(10) 午前中の時間割

羽仁プロ・羽仁 進

(22)

16位

49

(10)

白い指の戯れ

(次) 女生きてます・盛り場渡り鳥

松竹・森崎 東

(21)

25位

23

    

(選評) 深作欣二のバイオレンスの美学が開花。なんと「人斬り与太」シリーズで1位、2位を独占。新人、伊藤俊也の快作が同点で2位に食い込む。この年の特徴は何と言っても日活ロマンポルノの台頭であろう。わがベストテンにも3本入選したが、キネ旬にさえも上記の如く2本が入選するという健闘ぶり。今回も当ベストテンからキネ旬0点作品がなくなった事とあわせ、キネ旬のプログラム・ピクチャー重視化傾向がますます強くなって来た事を痛感せざるを得ない。(参加者12名)

 

        昭和48年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 仁義なき戦い・広島死闘編

東映・深作欣二

(87)

13位

70

(1) 津軽じょんがら節

 (2) 恋人たちは濡れた

日活・神代辰巳

(49)

14位

63

(2)

仁義なき戦い

 (3) 日本侠花伝

東宝・加藤 泰

(45)

22位

35

(3)

青幻記

 (4) 赤い鳥逃げた?

東宝・藤田敏八

(30)

17位

58

(4)

股 旅

 (5) 女郎責め地獄

日活・田中 登

(28)

24位

32

(5)

恍惚の人

 (5) 放 課 後

東宝・森谷司郎

(28)

0

(6)

四畳半襖の裏張り

 (7) 花 と 龍

松竹・加藤 泰

(24)

30位

20

(7)

戒厳令

 (8) 喜劇・男の泣きどころ

松竹・瀬川昌治

(23)

45位

8

(8)

仁義なき戦い・代理戦争

 (9) 実録・私設銀座警察

東映・佐藤純弥

(22)

0

(9)

男はつらいよ・寅次郎忘れな草

(10) 女囚さそり・第41雑居房

東映・伊藤俊也

(21)

37位

11

(10)

戦争と人間・完結編

(次) ポルノの女王・にっぽんSEX旅行

東映・中島貞夫

(15)

41位

9

    

(次) まむしの兄弟・恐喝三億円

東映・鈴木則文

(15)

0

    

(選評) 深作欣二が「仁義なき戦い」シリーズで大ブレイク。シリーズ2本がキネ旬テンにランキング入り。で、何故かこぼれた2作目が当ベストテンでダントツの1位。面白いのはキネ旬評論家連がこのシリーズを支持する人と拒否する人とで完全に二分化。無論支持するグループがロマンポルノを始めプログラム・ピクチャーをテンに押し上げた原動力となったわけである。逆にその為、この頃から当落ちこぼれベストテンの選考が非常にやりにくくなって来たのである。(参加者12名)

 

        昭和49年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 0課の女・赤い手錠

東映・野田幸男

(59)

22位

38

(1) サンダカン八番娼館 ・望郷

 (2) 色情めす市場

日活・田中 登

(43)

19位

52

(2)

砂の器

 (3) 濡れた欲情・特出し21人

日活・神代辰巳

(42)

15位

65

(3)

華麗なる一族

 (4) 女必殺拳・危機一発

東映・山口和彦

(28)

0

(4)

青春の蹉跌

 (5) 唐獅子警察

東映・中島貞夫

(24)

50位

3

(5)

竜馬暗殺

 (5) まむしの兄弟・二人合わせて30犯

東映・工藤栄一

(24)

0

(6)

わが道

 (5) 血を吸う薔薇

東宝・山本迪夫

(24)

0

(7)

仁義なき戦い・頂上作戦

 (8) 無(やどなし)宿

東宝・斎藤耕一

(21)

27位

19

(8)

襤褸の旗

 (8) ねむの木の詩

宮城まり子

(21)

17位

54

(9)

赤ちょうちん

(10) 恋は緑の風の中

東宝・家城巳代治

(20)

35位

9

(10)

(10) あ丶決戦航空隊

東映・山下耕作

(20)

32位

11

    

(次) ジーンズブルース/明日なき無頼派

東映・中島貞夫

(17)

54位

1

    

(次) ムツゴロウの結婚記

松竹・広瀬 襄

(17)

40位

6

    

(選評) これといった強烈な対抗馬もないせいもあるのだろうが、「0課の女」が1位に輝いた。野田幸男にとってもこれは代表作であろう(杉本美樹嬢、今はどうしていることでしょう)。東映は正統的任侠映画がほぼ壊滅、実録路線、ないしは現代アクションに主流が移ってしまっていた。中で異色は志穂美悦子のカンフーアクションの佳作「女必殺拳」で、こうした純エンタティンメントにも目くばりを行っている所が当ベストテンの自慢であると言えよう。 (参加者12名)

 

        昭和50年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 県警対組織暴力

東映・深作欣二

(62)

21位

27

(1) ある映画監督の生涯

 (2) 暗くなるまで待てない

桃色遊戯・大森一樹

(52)

21位

27

(2)

祭りの準備

 (3) 昭和枯れすすき

松竹・野村芳太郎

(50)

12位

97

(3)

金環蝕

 (3) 宵 待 草

日活・神代辰巳

(50)

14位

80

(4)

化 石 

 (5) 直撃地獄拳・大逆転

東映・石井輝男

(48)

28位

20

(5)

男はつらいよ・寅次郎相合い傘

 (6) 資金源強奪

東映・深作欣二

(39)

38位

14

(6)

田園に死す

 (7) 好色元禄物語

東映・関本郁夫

(33)

60位

3

(7)

新幹線大爆破

 (8) 友 情

松竹・宮崎 晃

(26)

42位

11

(8)

仁義の墓場

 (9) 新仁義なき戦い・組長の首

東映・深作欣二

(23)

30位

19

(9)

同(はらから)胞

(10) 喜劇・特出しヒモ天国

東映・森崎 東

(19)

42位

11

(10)

実録阿部定

(次) 阿寒に果つ

東宝・渡辺邦彦

(17)

0

    

(次) どっこい!人間節

小川プロ・湯本希生

(17)

11位

106

    

(選評) 深作欣二大奮闘の年。この年深作は何と5本の作品を連打し、うち1本がキネ旬ベストテンに入選、1本が当ベストテンの1位に輝き、後2本も当ベストテン入り。そのエネルギーにはただただ脱帽。「仁義の墓場」もキネ旬に入らなければ当ベストテン上位は間違いない傑作である。それにしてもキネ旬ベストテンの常連となった巨匠(?)をこれほど酷使する東映という会社のエグさにはあきれるやら感心するやら。深作自身もさすがに怒って「資金源強奪」では監督クレジットをはずせと申し入れた結果、タイトルでは「ふかさくきんじ」となっていたのであった。
 
その他では、大森一樹の自主制作作品「暗くなるまで待てない」が堂々の2位。アマチュアの16mm作品がベストテンに入ったのはこれが始めてである。と同時に、この前後からアマチュア作家が娯楽色の強い自主制作作品を作る傾向が強まって来たように思われる。   (参加者12名)

 

        昭和51年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) 暴行切り裂きジャック

日活・長谷部安春

(70)

14位

50 (1) 青春の殺人者

 (2) 狂った野獣

東映・中島貞夫

(53)

15位

48

(2)

男はつらいよ・寅次郎夕焼け小焼け

 (3) 犯 す!

日活・長谷部安春

(50)

23位

26

(3)

大地の子守唄

 (4) パーマネントブルー・真夏の恋

松竹・山根成之

(46)

16位

41

(4)

不毛地帯

 (5) 挽 歌

東宝・川崎義祐

(34)

29位

21

(5)

犬神家の一族

 (6) 暴走パニック・大激突

東映・深作欣二

(33)

24位

25

(6)

あにいもうと

 (7) 君よ憤怒の河を渡れ

松竹・佐藤純弥

(30)

18位

38

(7)

嗚呼!!花の応援団

 (8) 北の宿から

松竹・市村泰一

(28)

68位

2

(8)

やくざの墓場・くちなしの花

 (8) わたしのSEX白書絶頂度

日活・曽根中生

(28)

41位

14

(9)

さらば夏の光よ

(10) 爆発!750cc<ナナハン>族

東映・小平 裕

(25)

61位

4

(10)

屋根裏の散歩者

(次) 凍 河

松竹・斎藤耕一

(24)

72位

1

    

(選評) 長谷部安春が、バイオレンス・ポルノという新ジャンルを確立。5年ぶりにベストテンにカムバックしたばかりか、堂々の1位に。これは日活ロマンポルノとしても初のベストワンである。3位にも同ジャンルの佳作がランクイン。
 
パニック映画ブームに乗って、前年の「新幹線大爆破」に続いて東映が放った「狂った野獣」「暴走パニック−」がそれぞれ入選。これらは今見ても結構面白いのではないか。キネ旬の方ではご覧の通り、7位以下にズラリ、プログラム・ピクチャーが並んだ。しかも「嗚呼!!花の応援団」ですよ!こんなことはつい5〜6年前には考えられなかった事である。これはプログラム・ピクチャーを喜んでベストテンに選出する評論家が増えたこともあるが、むしろベストテンに入るような芸術的秀作が激減しているせいではないだろうか。同時にこれは、当落ちこぼれベストテンの存在自体も意義を失いつつあること示しているのではないだろうか。
(参加者12名)

 

        昭和52年

 順位 作 品 名 会 社・監 督 名

得点

キネ旬順位・得点

同年のキネ旬ベスト10

 (1) HOUSE

東宝・大林宣彦

(50)

21位

40

(1) 幸福の黄色いハンカチ

 (2) 江戸川乱歩の 陰 獣

松竹・加藤 泰

(43)

17位

65

(2)

竹山ひとり旅

 (2) 悲愁物語

松竹・鈴木清順

(43)

18位

62

(3)

はなれ瞽女おりん

 (4) 北陸代理戦争

東映・深作欣二

(29)

14位

73

(4)

八甲田山

 (5) ハネムーン・暴行列車

日活・長谷部安春

(28)

47位

8

(5)

青春の門 自立編

 (6) 悶絶 !! どんでん返し

日活・神代辰巳

(26)

14位

73

(6)

悪魔の手毬歌

 (7) 女 教 師

日活・田中 登

(20)

24位

27

(7)

ねむの木の詩がきこえる

 (8) セミドキュメント・処女失神

ワタナベプロ・中村幻児

(19)

0

(8)

ボクサー

 (9) 黒木太郎の愛と冒険

馬道プロ・森崎 東

(17)

11位

85

(9)

突然、嵐のように

(10) 大奥浮世風呂

東映・関本郁夫

(16)

33位

16

(10)

遠い一本の道

(次) 性と愛のコリーダ

日活・小沼 勝

(15)

42位

10

    

(選評) いちおうこのベストテン最後の年。この年は鈴木清順が10年ぶりに映画を撮り、加藤泰も4年ぶりに新作を撮るという、ファンにとってはありがたい年。ただし配給は古巣ではなく、なんと両方とも松竹であった。そして何と言っても大林宣彦がメジャーに進出、いきなり第1位を獲得した事で記憶されるべき年であった。また前年登場した角川映画が「人間の証明」で物量宣伝作戦を実行し、大ヒットを記録した。つられて東宝、松竹も「天は我々を見放した」(「八甲田山」)「たたりじゃー」(「八つ墓村」)のコピーでそれぞれ大宣伝戦争に参戦、1本立大作がメジャーの主流となり、つまりはプログラム・ピクチャーががこの頃から激減するきっかけとなった年でもあったのである。(参加者11名)

 

    選後評

さて、いかがでしたか。なんともヘソ曲がりな企画であり、選考する方も大変でしたが、(何しろ自分が気に入っている作品でさえ、キネ旬ベストテンに入選したものは全部はずさないといけないわけですから難儀したと思います)みんな快く参加していただき、ユニークなベストテンが出来たと自画自賛しております。
 で、選考者の感想を見ますと、昭和45〜6年頃までは入れたい作品が多くて10本で収まりきれないくらいだったのが、47年頃以降は逆に10本選ぶのがシンドいという声が多くなって来ます。これは私も同意見で、理由としては選評にも書いたように、その辺りからキネ旬ベストテンにもプログラム・ピクチャー的な作品が増えて来た事が挙げられ、つまりは「落ちこぼれ」作品が減少して来たという事なのです。
 で、昭和53年以降についてもこの「落ちこぼれベストテン」をやりたいという思いはずっとありますが、上記の理由、それに加えて最後の選評にもありますように、この辺りからプログラム・ピクチャーの製作本数が激減し、と言うより10年ほど前から、プログラム・ピクチャーが実質的にすっかり姿を消してしまっている状態で、果たして理想的なテンが選べるものなのか、不安があるのが正直なところです。これについてはメールなどでもご意見をお寄せください。(参加希望者が多ければ考え直すかも?)
 
ともあれ、筋金入りの映画クレージーたちが選んだ、もう一つのベストテン15年史、いかがでしたでしょうか。古い日本映画に関心のある方は、この結果を是非参考にしていただければ幸いです。