恒例の、2018年度の私の選んだワーストテンを発表します。例年の通り、単に出来の悪い作品よりも、期待している作家がその期待を大きく裏切った場合に、厳しく採点しているケースがあります。対象期間はベスト20と同様、2018年1月〜12月大阪公開作品。ただし前年末に公開されたが、年明けに鑑賞した作品も入れる場合もあります。
では発表します。
順位 |
作 品 名 | 監 督 |
1 | 曇天に笑う | 本広 克行 |
2 | 北の桜守 | 滝田 洋二郎 |
3 | jam | SABU |
4 | ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー | ロン・ハワード |
5 | 億 男 | 大友 啓史 |
6 | ラプラスの魔女 | 三池 崇史 |
7 | 鋼の錬金術師 | 曽利 文彦 |
8 | グリンチ | スコット・モシャー&ヤーロウ・チェイニー |
9 | スマホを落としただけなのに | 中田 秀夫 |
10 | 旅猫リポート | 三木 康一郎 |
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今夜ロマンス劇場で | 武内 英樹 |
昨年度(2017年)は、特にヒドいワースト作品は少なくて、ヘンな言い方ですが、ワースト不作の年(笑)でした。ところが本年度は久しぶりに「これはヒドい!」と言いたくなる駄作が上位に並びました。叩き甲斐があるというものです(笑)。
1位は「曇天に笑う」。これ、福士蒼汰が見え切った後で「なんつって」と笑う予告編をイヤという程見せられたので、観る前から駄作臭芬々でしたが、観たらこれが予想をはるかに上回る超駄作でした。脚本ヒドい、俳優の演技がヘタ、脇の人物がそれに輪をかけてヘタ、さらに本広克行の演出がユルくて緊迫感もないしアクションも迫力なし。主人公が刀でなく扇子を武器に闘うのですが、刀を持っている相手にそれで勝とうとするなら、目にも止まらぬスピード感が表現されていないと。例えばスローモーション撮影とコマ落しを併用するなり、演出テクニックに工夫を凝らすべきでしょう。日本映画が好調な年だっただけに、そのヒドさが際立った1本でした。
2位の「北の桜守」については作品評を参照のこと。小百合さんにご忠告。もう東映作品には出ない方がいいと思いますよ。
3位は「jam」。3人の若者についてのエピソードが並列して進行し、時々交錯する、という展開は、うまく作れば内田けんじ監督「運命じゃない人」のような秀作になる可能性も秘めていたのですが、SABU監督自身が書いた脚本がどうも工夫が足りず、ただダラダラ進むだけなのでちっとも面白くなりません。終盤はいつものSABU作品のお約束のように全力疾走シーンが登場するのですが、誰かに追っかけられているわけでもないのに、なんで走ってるのか、必然性が感じられません。不思議なのが、いくら全力疾走とはいえ、商店街の中を走り抜けただけのヒロシが、雅子を乗せて猛スピードで走るタケルの車に追いついてしまう事。ありえないでしょう。さらに急ブレーキをかけた弾みで雅子がフロントガラス突き破ってヒロシに衝突…って。これはギャグアニメかよとツッ込みたくなります(あのスピードではヒロシも雅子も即死ですよ)。一方でヤクザの事務所に殴り込みをかける暴力シーンが延々と続き…。一体この映画、コメディなのか、シリアスな人間ドラマなのか、バイオレンス作品なのか、収拾がつかなくなってます。SABU監督、もっと脚本を練り込むべきでしょう。それと、もう意味のない疾走シーンは止めてはいかがですか?
4位「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」。一昨年の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」がなかなか見応える秀作だったので、こちらも期待したのですが、期待外れも甚だしい出来にガッカリ。ジョージ・ルーカスは以前にも、インディー・ジョーンズの若き日の冒険を描いた「ヤング・インディー・ジョーンズ」シリーズをテレビで放映し、そこそこ視聴率を稼いだ事があったので、同じハリソン・フォードの当たり役ハン・ソロで二匹目のドジョウを狙ったのでしょうか。しかしテレビならまだしも、1本の長編映画にするなら脚本を練りに練って、コアなファンも納得させるものを作らねば。「ローグ・ワン」が素晴らしかったのは、本編で語られなかった重要な部分を補完して本編に繋げ、かつ単独作として見ても大変感動させられる物語だったからです。本作は単に若い奴が適当に動き回るだけのお話で、「S・W」本編とはほとんど関係ないと言ってもいいでしょう。せめて、ソロが若い時の活躍が本編にリンクし、なるほどそうか、と思わせる部分くらいは盛り込むべきでしょう。ロン・ハワードの演出も、これがハワードかと疑いたくなるくらいスカスカです。厳しい言い方をすれば、過去の財産を切り売りして銭儲けを狙った、セコい作品でしかありません。案の定、「映画秘宝」誌でも選者、読者ともワースト入りしてました。まあ当然ではあります。
5位「億男」。「お金があれば幸福か」というテーマはいいのですが、物語としてはダラダラ間延びしてつまらないです。同じテーマを持った、落語の「芝浜」もベースになってるとは分かるのですが、何も落語そのものを映画の中に入れる必要はないでしょう。そもそも主人公は借金苦で、別れた妻子とヨリを戻したい為、お金が欲しいと望んでいたわけですね。だったら3億円を得たなら、まず真っ先に妻子の所に行って「これで借金返して一緒にくらせるぞ」と言うべきなのに、なんでそれをせずに、10年ぶりに会った友人に相談したり、その3億円を預けてしまったり、キャバレーで散財したりするんでしょうか。順序が違うでしょうに。モロッコのエピソードもなんか取ってつけた感じで面白くない。
原作は、どちらかと言うと童話のような雰囲気で、章が進むごとにサブタイトルに含まれた数字が増えて行くという所も楽しく、ホンワカとした語り口で、童話として読むならまあまあなのですが、映画にするには無理がありますね。せめて、大林宣彦監督のような才気煥発な監督ならなんとかなったかも知れませんが、大友啓史監督では技量不足だったという事に尽きると思います。
6位「ラプラスの魔女」。昨年の「ナミヤ雑貨店の奇跡」同様、東野圭吾原作ものは、小説ではごまかせても映像にするとアラだらけ。
7位「鋼の錬金術師」。アニメ的ファンタジーを実写にするとつまらなくなる見本。
8位「グリンチ」。イルミネーション製作アニメにしては面白くない。突然善人になる理由が今一つピンと来ず。
9位「スマホを落としただけなのに」。ヘタに貞子やヒッチコック入れて逆につまらなくなってます。詳しくは作品評をお読みください。
10位「旅猫リポート」。展開モタモタし過ぎ。猫しゃべり過ぎ。
こうして見ると、滝田洋二郎、SABU、大友啓史、曽利文彦、三池崇史といった具合に、期待してる監督の作品が半分を占めています。困った事です。もっともSABU、大友啓史らはここ数年の三池崇史と同様、ワースト常連になりつつありますが。
昨年に続いて、今年度もまた個々の作品の寸評が書ききれず、6位以下が簡単な感想だけになってしまいました。申し訳ありません。
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