恒例の、2016年度の私の選んだワーストテンを発表します。例年の通り、単に出来の悪い作品よりも、期待している作家がその期待を大きく裏切った場合に、厳しく採点しているケースがあります。対象期間はベスト20と同様、2016年1月〜12月大阪公開作品。なお、本年はワースト作品に関する作品評は1作もありません。これは珍しい事です(て言うか忙しくて作品評書く時間がなかっただけですが(笑))。 では発表します。

順位

作  品  名 監    督
デスノート Light up the NEW world 佐藤 信介
無伴奏 矢崎 仁司
テラフォーマーズ 三池 崇史
インディペンデンス・デイ:リサージェンス ローランド・エメリッヒ
秘密 THE TOP SECRET 大友 啓史
疾風ロンド 吉田 照幸
僕だけがいない街 平川 雄一朗
真田十勇士 堤 幸彦
任侠野郎 徳永 清孝
10 ノーホワイト 氷の王国 セドリック・ニコラス=トロイアン

BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント スティーヴン・スピルバーグ

 

 1位「デスノート Light up the NEW world」。10年前に登場した「デスノート」二部作(金子修介監督)は期待以上の面白さでした。それだけに、前作を上回るスケールアップした作品世界を期待したのですが、なんともゴチャゴチャしたしまらない作品になっていたのにはガッカリ。
 前作が面白かったのは、エリートで頭のいい、完全犯罪を企む男・夜神月に、見た目は冴えないが実は頭脳明晰な名探偵エルが立ち向かう、刑事コロンボや古畑任三郎を思わせる知的ミステリーの味わいがあったからです。ところが本作は、犯人も警察も頭が悪い行動ばかりするし、天才探偵・エルの後継者竜崎も、どこが名探偵かさっぱり分からない。前作の松山ケンイチ扮するエルは、奇ッ怪なメイク、ヘンな姿勢、甘いもの好き等のユニークなキャラで楽しませてくれたのに、本作の池松壮亮扮する竜崎は、外見も頭脳も松ケン・エルに比べ全く魅力に乏しい。犯人も名探偵もつまらない上にお話も中途半端では話になりません。製作者は前作を100回見直して、何処が面白かったのか、何が人気を呼んだのか、徹底分析してから作るべきでしたね。期待裏切り度において、文句なくワーストワンです。ついでながらアルファベットのサブタイトルも意味不明(なんでNEWだけ大文字?)。

 2位「無伴奏」。実はこちらにも池松壮亮が出演しています。新しいワースト常連俳優になりそうです(笑)。
 舞台となる時代と登場人物は昭和40年代中期、学園紛争華やかなりし頃の活動家崩れの若者たちが主人公です。となれば、この時代をある程度は知ってるか思い入れのある人に脚本を書かせるなり演出を任せるなりにすべきでは。昭和の雰囲気も、時代の空気感も全く出ていません。学生運動も只の付け足し。あの時代をあえて舞台にする意味が感じられません。登場人物たちにも共感出来ませんし、演技は薄っぺらいしセリフは棒読みに近い。極めつけが成海璃子のベッドシーン。手で無理にバストを隠すから不自然な姿勢で興醒めです。ベッドシーン嫌なら出なけりゃいいし、出るからには堂々胸出すべきでしょう。この女優の中途半端さが一番のマイナスポイントです。反面、男たちのベッドシーンには妙に力入ってますが(笑)、力の入れ所間違ってます。無伴奏ならぬ無気力、無感動さが印象に残った凡作でした。

 3位「テラフォーマーズ」。もはやワースト常連となった三池崇史監督(笑)、今年も昨年に続きワースト3位です。
 原作はまったく知らないから原作との比較は置いとくとして、映画の疑問点をいくつか。まず地球人口増加対策として、火星移住計画を図るのはいい。だけどなんでゴキブリを大量に火星に送り込む必要が?人間が忌み嫌う地球上の害虫ゴキブリをなんで人類が将来住むべき星に送るのでしょう。不衛生だし台所は荒らされるし。一番送ってはいけない虫だと思いますが。次にそのゴキブリが進化したら、何で二足歩行の人間とそっくりな体型になるのでしょう。普通の感覚なら巨大ゴキブリ怪獣(怪獣ゴキラ?(笑))になるなら分かりますが。人間とそっくりの身体になるのなら、人間のDNAと合体したとしか考えられません。最低そのプロセスは説明が必要でしょう(原作では説明されてるのかな)。ゴキブリ駆除の為派遣された隊員たちは昆虫DNAが注入されて変身したと説明があるわけですし。
 で、火星に派遣された隊員の伊藤英明が、その怪物を見つけて「ハロー」と親しげに声かけたのにも唖然。出発前なり、宇宙船内で、敵の姿形や攻撃能力など確認し徹底分析してから向かうべきでしょうが。案の定隊員の女性速攻で首へし折られます。マヌケにも程があります。
 敵陣に向かおうとすると、巨大な津波が…よく見るとゴキブリ人間の大群がゴロゴロ転がって…観客バカにしてます。敵が虫とかアメーバ状ならともかくも、人間と同じ体してて山積みになってゴロゴロ転がるなんてアホです(下積みの奴ツブれるでしょうが)。二本足で武器持って突撃する方がよっぽど効率的じゃないですか。アメリカのナンセンス・ギャグアニメ(テックス・アヴェリーとか)ですらこんなバカはしません。
 万事この調子で、スリリングなアクション映画であるべきなのに、ユルユルで締まらない、間が抜けてる、アクション迫力なし、で最近の三池崇史さんの低迷ぶりを象徴するような愚作でしたね。

 4位「インディペンデンス・デイ:リサージェンス。これは既にあちこちでワースト作品に選ばれてますから深くは追求しませんが、単に敵エイリアンの宇宙船が大きくなっただけで、前作の劣化再生産でしかありません。敵も味方も、20年前の教訓を全く学んでおらず、バカみたいな戦略なしの突撃を繰り返すだけ。これでは面白くなるはずがありません。CGは発達したけれど、作者たちの頭は全然発達、どころか退化してるのでは、と思えるほどの空疎な大作でした。

 5位秘密 THE TOP SECRET「るろうに剣心」で成功を収めた大友啓史監督だけに期待したのですが、残念な出来になってしまいました。
 “人間の脳内を映像化する”というコンセプトはSFとしてはなかなか面白いアイデアではあります。原作のそのアイデアだけ借りて、あとは映画的にシンプルに話を纏めれば結構面白い作品になったと思うのですが、長い原作のあれもこれも詰め込んだ為に、散漫で意味不明の作品になってしまいました。
 細かいツッ込みを入れると、脳内にはコンピュータと同様、膨大な情報が埋まっているはずで、その中から目的の情報を探し出すなんて、太平洋で針1本探すような気の遠くなるような作業が必要と思うのですが。コンピュータのようにアドレスやキーワードインデックスがあるわけでもないし。映画では割と簡単に見つけてるように見えます。それと、人間の記憶は時間と共に曖昧になったり、美化されたり、都合のいいように塗り替えられてる事もあるでしょうから、映像があったとしても100%真実かどうかは判らないと思うのですが。そこらを納得出来るよううまく説明して欲しかったですね。
 ラストも意味不明です。犬の脳内を映像化??犬が見た世界はこんなにも美しいって事ですか?本筋であるミステリーはどこかへ行ってしまいましたね。何を言いたかったのでしょうか。科学の発達に対する警鐘でもあればまだ納得出来たでしょうが。「プラチナデータ」も今ひとつつまらない出来でしたし、大友監督は、痛快娯楽アクション時代劇以外は(特にSFは)、向いていないのかも知れませんね。

 6位「疾風ロンド」。東野圭吾原作ミステリーで、雪山のどこかに致死量数千人分の生物兵器が埋められ、しかも犯人は死んでしまった。さあどうやってタイムリミットまでにカプセルを見つけるか…という緊迫したサスペンス
…であるはずなのに、映画はこれをコメディ仕立てにして、ものの見事に失敗しています。
 予告編を見てまず脱力しました。阿部ちゃんが一生懸命コメディ演技してるのですが、ことごとくスベッてます。で、ギャグがサムい。全然笑えません。雪山でスキーするシーンがあるからサムくてスベッてるのか、とカマしたくなりました(笑)。ちっちゃい女の子が大人にタメ口聞いてるなんて、笑えるどころか不愉快になります。もうこの予告編だけでワースト確定です。
 大体なんでコメディにしたのでしょうか。原作は知りませんが、こんな、まかり間違えば大量の死者が出るパニック・サスペンスをコメディにする事自体賛同しかねます。もしどうしてもコメディにするなら、作る側に相当なコメディ・センス、シニカルな批評精神が要求されます。普通のコメディ以上に難しいのです。残念ながら作者たちにその力量はなかったようです。
 せっかく見つけたカプセルを、手元が滑って床に落としカプセルが割れるシーンがありますが、たまたま偽物だったから良かったものの、本物だったらシャレになりません。すり替えた当人は、カプセルの形状、サイズをなんで知ってたのでしょうか。気付かれずにどうやってすり替えたのでしょうか。ご都合主義にも程があります。むしろ、割れたのが本物で居合わせた人間全員死んで、かくして阿部ちゃんの不注意一発でウイルスは日本中に広まりましたとさ…てなブラック・ユーモアにした方が面白かったかも知れません(ロマン・ポランスキー監督「吸血鬼」が似たようなオチでしたね)。
 阿部ちゃんの息子が冷蔵庫のカプセルの中身をウインナーとすり替えるのも納得行きません。すり替えた理由付けがあいまいだし、だいたい1本の映画の中に、子供が生物兵器をたまたますり替えるという、凄く危険な都合のいいエピソードが2度も出て来る事自体が反則です。敵も、普通一度は開けて中身を確認するでしょうに。てな訳で、こんなデタラメな脚本が通って映画化にゴーサインが出てしまう現状に、むしろ寒気を覚えてしまうのでした。

 7位「僕だけがいない街。SFなのですが、ツッ込みどころ満載のズサンな作りですね。
 過去に何度も戻る、というタイムリープSF映画は最近よく見ますが、本作は穴だらけです。まず、最初の頃は本人自身の身体が過去に戻る事を繰り返しますが、何度目かに今度は、その時代の子供の頭の中に入り込むのです。これはむしろ、心と身体が入れ替わる「転校生」に近いネタで、なんだか同作と「時をかける少女」の2本の大林宣彦監督作品を一緒くたにパクッたような安直なお話です。だいたい侵入された当人の意識はどうなったのでしょうか。その辺いいかげんです。他にも、過去に起きた事を知ってるなら避ければいいのに、と思う箇所がいくつかあります。
 ラストも納得ゆきません。主人公は撃たれ、そのまま死ぬのですが、過去に戻れる能力があるのなら、撃たれた瞬間過去に戻れば命は助かるし、次には先を予測して事件を回避すればいいだけです。戻れないなら、戻れなくなった理由をきちんと説明しておくべきでしょう。
 まあ上手に作れば面白い映画になったかも知れませんが、その為には脚本作りに時間をかけて練りに練るべきでしょう。脚本の弱さが致命的でした。

 8位「真田十勇士」。堤幸彦監督も私にとってはワースト常連監督です。昨年はもう1本「RANMARU神の舌を持つ男…(以下略)」がありましたが、あまりに予告編でワースト臭芬々で観る気なくしてしまいました(笑)。観てれば多分これもワースト入りは確実ですね。
 この作品で一番いけないのは、真田幸村(加藤雅也)が優柔不断の腰抜けという設定。それなら最後まで腰抜けで通すべきなのに、途中から急に勇敢になり、単独で徳川家康の陣営に突っ込んで壮絶な戦死を遂げます。前半とは全く別人のようです。なんでこんなに性格が急変するのか意味不明。むしろ最後まで、そして淀君も豊臣秀頼も、みんな腰抜けだった、後に伝えられた話は全部フィクションだ、と居直った方が面白かったと思います。
 冒頭シーンもヘンです。しばらくはずっとアニメで物語が進行します。あまりに長いので、これは全編アニメかと錯覚するくらい。アニメにした理由が分かりません。思い切ってデフォルメしてマンガチックに描くのならアニメにするのもいいでしょうが、結構リアルな画で、普通に話が進みます。アニメにする必然性が感じられません。
 万事この調子で行き当たりばったり。ラストでやっとホラ話的オチで締めくくりますが、その為あの壮絶な幸村の戦死部分だけが妙にリアルで暗く全体から浮いてます。ああいう人を食ったオチにするなら、幸村の戦死も、実は替え玉だった、とか、実は家康と組んだ出来芝居だった、とかのアッと驚く騙しのテクニックを用意すべきでしょう。
 とにかくすべてが中途半端。真面目なのか、フザけてるのか、戦国歴史絵巻なのか、コメディなのか、トータル・コンセプトをはっきりすべきでしょう。…ま、堤監督にそれを求めても無理でしょうが。
 ちなみに、真田十勇士を扱った映画で抱腹絶倒だったのが、鬼才・加藤泰監督の中村錦之助主演「真田風雲録」(1963)。猿飛佐助は宇宙から落下した隕石の力で超能力を持つし(笑)、真田幸村はここでもヘタレ、戦場で敵兵に「こいつが幸村のはずねえや」とバカにされ、最後は死んだ雑兵が握ってた槍先に自分で刺さって「カッコ悪い〜」と叫んであえなく戦死。秀頼は終始オロオロ、千姫はキャピキャピ、てな調子で、服部半蔵忍者軍団はなんと「ウエストサイド物語」風ダンス踊って登場するハチャメチャぶりに大笑い。それでいて当時の政治状況に対する痛烈な風刺もうまく盛り込む等、実によく出来た力作でした。どうせならこの作品をCGバリバリ使ってリメイクした方がよっぽど面白かったのではと思いますね。

 9位「任侠野郎」。漫画家の蛭子能収さんが主演したパロディ任侠映画。…のはずでしたが、蛭子さん、すっかり高倉健サンの気分になりきって、ごく真面目に任侠映画のヒーローを演じてますから、何とも中途半端な気分になります。
 蛭子さんが演じるなら、これはやっぱり笑えるコメディにすべきでしょう。任侠映画のヒーローを気取って、いろいろ真似してみるがことごとく失敗する、というお話なら面白そうですが。ストーリーは健サン主演の「日本侠客伝」辺りとほとんど同じ。悪玉の横暴にも我慢を重ね、最後に堪忍袋の緒を切って日本刀下げて相手の事務所に殴り込み。二人揃って歩く所は「昭和残侠伝」とこれまた同じ。まるでこれらの脚本をそのままパクッて来たような何のヒネりもない脚本です。だから面白くもなんともありません。健サンの真似してみたい蛭子さんのマスターベーション映画、と言えば言いすぎでしょうか。健サン映画ファンは見ない方がいいです。ちなみに脚本は「変態仮面」の福田雄一です。

10位ノーホワイト 氷の王国。前作「スノーホワイト」も酷かったが(2012年度マイ・ワースト2位)、性懲りもなく続編が出て来ました。で、やっぱり駄作でした(笑)。そもそも、「スノーホワイト」とタイトルにありながら、白雪姫は出て来ません。前作の前日譚に始まり、前作の話に繋げて、そこでポンと話は前作の続きとなる、という怪作。というか前日譚か後日譚のどちらかに絞れよ、と言いたくなる珍作です。前作で死んだはずの女王が復活したり、もう無理くり苦し紛れに続編をデッチ上げたという感じです。内容も、題名からも分かるように、ディズニー「アナと雪の女王」にあやかりたい意識見え見え。サモしい根性です。

次点 「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」。スピルバーグにしては珍しい凡作です。巨人の老人と子供との交流を描く、「E.T.」老人版といった所ですが、まったく感動しません。老人が少年を巨人の国に連れて行く理由も分かりませんし。だいたいおナラネタが下品です。お話もあっち飛びこっち飛び。終盤は英国女王に助けてもらい、英国軍隊が悪い巨人をやっつけに行くという話に口アングリ。そりゃファンタジーとして反則でしょうが。ピーターパンが軍隊連れて来て海賊をやっつけたって面白くも何ともないでしょうに。感動を期待したスピルバーグ・ファンはガッカリでしょうね。

 
 
今年度も、10本のうち8本が日本映画。まあ期待してる監督でワーストに入ったのは大友啓史くらいで、後は入るべくして入った人たちばかりと言えるでしょう。反省していただきたいものです。

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