恒例の、2014年度の私の選んだワーストテンを発表します。例年の通り、単に出来の悪い作品よりも、期待している作家がその期待を大きく裏切った場合に、厳しく採点しているケースがあります。対象期間はベスト20と同様、'2014年1月〜12月大阪公開作品。なお、今回も1作品しかありませんが、ベスト20と同様、アンダーライン付の作品は、クリックすれば作品批評にジャンプします (戻る場合はベスト20と同様、ツールバーの「戻る」を使用してください)。 では発表します。

順位 作  品  名 監    督
ホットロード 三木 孝浩
喰女 クイメ 三池 崇史
トランセンデンス ウォーリー・フィスター
LUCY/ルーシー リュック・ベッソン
相棒−劇場版III 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ 和泉 聖治
神さまの言うとおり 三池 崇史
白ゆき姫殺人事件 中村 義洋
ふしぎな岬の物語 成島 出
MOTHER マザー 梅図 かずお
10 魔女の宅急便 清水 崇
トランスフォーマー/ロストエイジ マイケル・ベイ

 

 1位「ホットロード」は、「あまちゃん」で人気の能年玲奈が主人公で、原作を調べたらなんと28年も前にコミックに連載された作品だという。で、登場人物は不良少女と暴走族の若者。年齢はヒロインが14歳の中学生…。能年玲奈はとても中学生には見えない。内容は古臭いし時代は昭和だし、今映画化する意味があるのか、とまず疑問。映画を見てさらにあきれた。原作では少女は金髪でビール飲むし盗みはするしと、まあ当時としてはパターンまんまの不良。ところが能年演じる少女はどれもやらない。まったく健康そのもので、どこが不良少女だ。相手役の少年もシンナー吸ったりタバコ吹かしたりで荒んでるはずなのにこちらもそんな様子なし。80年代には多くの暴走族映画、不良少年少女ものが作られていたはずだから、それらを見てちょっとはおさらいしておくべきだろう。学芸会みたいな、ふやけたエセ青春映画だった。これは結局、アイドル主演でコミック原作ものなら当たるだろう、という思いつきだけの企画で、役柄が合ってるとか時代がマッチしてるかとかまるで考えていないからだろう。
演出(三木孝浩)も凡庸。演技指導やった形跡も見られないし、時おり何の脈絡もなく挿入される江ノ島の風景は、全く意味不明。ただ脚本に書かれてる通りに撮りました、という感じで、演出家としての姿勢がまるで見えない。アイドル+コミック原作なんだからこんなもんでいい、と思ってるのだろうか。それじゃ監督失格だ。
昔、薬師丸ひろ子主演の「翔んだカップル」という映画があった。これもアイドル+コミック原作で、企画としてはありきたり、期待しないで映画館に入った。ところが映画を見てビックリした。ワンシーンを延々長回しでワンカット撮影、少年少女たちの悩み、苦しみ、迷い、かつ躍動する姿が瑞々しく、ヴィヴィッドに捉えられていた。これは衝撃だった。見終わって、「これこそ俺たちの青春映画だ!」と感動した。そしてこの作品はその年の私のベストワン。キネ旬ベストテンでは惜しくも11位と大健闘。監督次第では、アイドル+コミックだって傑作になりうるのである。監督は相米慎二。これがデビュー作だった。三木監督、是非この相米監督作品を繰り返し見て、猛反省して欲しい。

 2位「喰女 クイメ」。詳細は批評参照。これまでもコワいホラー映画を撮ってる三池崇史とは思えないくらい、コワくないし怨念の強さも感じられない退屈な作品だった。三池監督に、一時のようなパワーが感じられなくなっているのは気がかり。点が辛いのは期待しているが故。奮起して欲しい。

 3位「トランセンデンス」4位LUCY/ルーシー」は、どちらもSFとしての基本アイデアは悪くはない「トランセンデンス」は、天才科学者の頭脳がコンピューターにアップロードされたらどうなるか、LUCY/ルーシー」では、普通の人間なら全体の10%しか機能していないと言われる脳の機能が100%覚醒したらどうなるか、という事で、結局どちらも、アイデアの面白さに浮かれてしまってストーリーの練りがおろそかになり、話をどう展開しどうオチをつけるか、という所まで頭が回らなくなって迷走、支離滅裂な作品になってしまった。前者では、どういう目的か不明の巨大な施設を作ったり(その資金はどこから?)、それが破壊されたら見る間に自動的に修復させたり、瀕死の重症者をアッというまに治したり、って、どういうメカニズムでそんな事が出来るのか説明なし。あんたは神か超能力者か、とツッ込みたくなる。
後者では、脳の覚醒率が上がるに従い、ルーシーがどんどん超能力者になって行き、時間を早送りしたり(タブレットのページめくりみたいな操作には爆笑)、タイムスリップして過去に行ったり宇宙空間に行ったり、コンピューターと同化したり、とメチャクチャ。元々の原因は、ルーシーの体内に埋め込まれた麻薬(?)の外装が衝撃で破れた為らしいのだが、それくらいの衝撃を受けたら先に内臓が破裂して死んでしまうよ。ベッソン、どう話を纏めるか思いつかなくなってヤケクソで作った感じ。以前にも「アンジェラ」(2006)というトホホな駄作を作ってるベッソン、またもやっちゃった、てとこですね。ついでながらどちらの作品にもモーガン・フリーマンが出ている。もっと作品選べよ、と言いたくなる。

 5位相棒−劇場版III 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ。テレビの「相棒」は大好きなのだが、劇場版はどれも凡作。とにかくテレビよりスケールを大きくしよう、という魂胆だけで、話の練りが足りない。今回も同様。太平洋に浮かぶ絶海の孤島で起きた死亡事故が発端なのだが、そんな離れ小島の事故(それも馬に蹴られた!)になんで警視庁の刑事が首を突っ込めるのか、そこからして疑問。鑑識の米沢まで島に呼び寄せてるけど完全に管轄外でしょう。出張経費は?と?マークが頭に次々と。
後半に至って、民兵だの国防だの生物兵器だの、警察には手の余る方向に話を広げすぎでかえって面白くない。ラストの「平和ボケ」論議は、作者としては今の空気に一石投じたい気持ちは判らないでもないが、それは「相棒」とは別のドラマで展開すべきだろう。いつもながら、あれもこれもと詰め込み過ぎてかえってつまらなくしている。「相棒」ファンとしては、天才的な犯人の完全犯罪トリックを、右京の明晰な頭脳と、カイトの行動力との絶妙なチームプレーで解明して行く、知的ミステリーを大画面で堪能したいものである。

 6位神さまの言うとおり」。コミック原作という事だが、なんじゃこれ、と言いたくなる珍作。コミックは売れてるらしいのだが、今の読者はこんなのを面白がってるのだろうか。ダルマさんがころんだとか巨大招き猫とかコケシとか、日本に古くからあるゲームや置物のレトロ感と、集団殺戮のグロテスクさを組み合わせる意味がまったく不明。面白くもなんともない。不愉快なだけ。そもそも何者がこんなバカげた騒動を引き起こしているのか、作者は何を言いたいのか、さっぱり判らない。主人公たちのキャラも精彩なし。三池崇史監督が2本も入ったが、最近パワーダウンが目立つ。もっと作品を選ぶべきではないか。

 7位「白ゆき姫殺人事件」。湊かなえ原作のミステリー、なのだが、「告白」ほどの面白さはない。ネット、Twitter、SNSといかにも今風なアイテムを出してるけど、かえって薄っぺらい。映画はさらにペラペラだ。画面上をTwitter文面が延々と流れるシーンは、単に汚らしいだけで気分が悪くなる。出来の悪いYoutubeみたいだ。
綾野剛扮する主人公にも魅力が感じられない。ネット情報を信じ過ぎたり、憶測で判断してしまうのも軽率。そのネットの噂を簡単に放映するテレビ局も輪をかけて軽率。リアリティがなさすぎだ。そしてラスト、脈絡も伏線もなくいきなり警察が犯人逮捕…って、唖然。ミステリーにもなってなく、かと言って人間ドラマとしても平板で底が浅い。テレビドラマ以下の出来である。中村義洋監督は、「みなさん、さようなら」とか「ポテチ」とか、地味な小品でいい味を出しているので、もっと柄に合った作品を選ぶべきではないか。

 8位ふしぎな岬の物語」。成島出は期待している監督の一人なのだが、これはいただけない。登場人物全員が、吉永小百合を称え敬愛するような内容で、こっちが恥ずかしくなって来る。おかしな所もいくつかある。喫茶店にやって来る常連客が笹野高史と鶴瓶とあと3人くらいしかおらず、いつも閑散としてるのが不思議。これでは経営が成り立たないだろう。なのに、喫茶店が火事になった後、すごく大勢の村人が見舞いに来るのも不思議。登場人物の掘り下げも浅い。阿部寛が単純バカにしか見えないのは痛い。
そして分からないのが、虹を追ってやって来た父娘の存在。後半で、亡くなった小百合の夫の幽霊を見たという話になるのが唐突すぎる。これって幽霊ファンタジーなの?なんで見ず知らずのこの娘の所に夫が現れたの?なんで絵を持って帰るの?夫の幽霊が自分の所に来なかったというだけで、何で自殺まがいに火事をボケッと見てるの?と分からない事だらけ。最後に至っても謎は一つも解明されない。どころか、夫の幽霊話、いつの間にか忘れられてる。
細かい事だが、30年間喫茶店に通いつめるタニさん(鶴瓶)は、なんでコテコテの大阪弁なのだろう。昔大阪に居たとしても、30年も関東にいたら自然に標準語になるだろうに。てか、どの映画でも大阪弁しか喋らない(喋れない?)鶴瓶のキャスティング自体が間違い。マドンナをひたすらガードする阿部寛のキャラや、マドンナに思いを打ち明けられないタニさんなんかは、まるで「男はつらいよ」の寅さんみたいだ。いっそ山田洋次が監督したらまだ見れた作品になったかも知れない。
それにしても吉永小百合、いつまで年齢不相応の若作り役を演じてるのだろうか。老け役をやれとまでは言わないが、演技と存在感で唸らされるような作品にチャレンジしていただきたいものである。比較するのもなんだが、名優・田中絹代さんは65歳の時に「サンダカン八番娼館・望郷」(1974)で老婆役を熱演して絶賛された事を付記しておく。

 9位MOTHER マザー」。梅図かずおの初監督作品。マンガ家が監督をやりたい、という願望があるのは分かるが、やはり技術を学んでいない人がいきなり監督をやるのは難しい。得意のホラーなのに、怖さの演出が生ぬるい。“母”の人物像、内面が描けていないから物語に説得力を欠く。というより、「リング」が登場した後では、梅図ホラーも大して怖くないのだ。残念ながら、梅図かずおの時代はとっくに終わっている事を再認識しただけの作品となった。

10位魔女の宅急便」。宮崎駿の名作アニメを実写でやるというのも無謀だが、本来ヨーロッパが舞台で、西欧伝説の魔女がモチーフの童話を日本人配役でやる事自体間違ってる。舞台をどこにするのかと思ったら、瓦屋根に日本語看板が出てきた事からして日本が舞台のようだ。その風景の中でホウキにまたがった魔女の子が飛んでる絵は違和感ありまくり。お話が面白ければまだいいのだが、これもつまらない。最後の、子供のカバ(プラス少年トンボ)をぶら下げて飛ぶシーンにはただ唖然。合わせれば100キログラムを優に超える荷物を持ち上げるなんてありえなさすぎ。ホウキが折れるだろう。実写だから余計不自然さが付きまとう。宮崎作品ではイモが入った箱を運ぶのさえ重くて苦労してたのに。やはりこれはアニメでないと無理な作品である。小芝風花ちゃんは可愛いかったけどね。

次点「トランスフォーマー/ロストエイジ」。とにかく荒っぽい。派手にぶっ壊してるだけで、中味なにもなし。お話も毎回似たり寄ったりで新味なし。マイケル・ベイに期待するのが無理か。

 
 
今年度も、日本映画が8本も占めてしまいました。特に困るのは、三池崇史、成島出といった、私が応援している日本映画のホープたちがワーストに入ってしまった事。2015年は是非名誉挽回して欲しいものです。
その他、多分ワーストだろうと予測して、見なかった作品は次の通り。
「アイ、フランケンシュタイン」
「好きっていいなよ。」「近キョリ恋愛」「想いのこし」「アオハライド」…「ホットロード」で懲りたせいか、同パターンの青春映画に拒絶反応が起きてるのかも。

 

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