恒例の、2013年度の私の選んだワーストテンを発表します。例年の通り、単に出来の悪い作品よりも、期待している作家がその期待を大きく裏切った場合に、厳しく採点しているケースがあります。対象期間はベスト20と同様、'2013年1月〜12月大阪公開作品。なお、僅か(1作品)しかありませんが、ベスト20と同様、アンダーライン付の作品は、クリックすれば作品批評にジャンプします (戻る場合はベスト20と同様、ツールバーの「戻る」を使用してください)。 では発表します。

順位 作  品  名 監    督
俺はまだ本気出してないだけ 福田 雄一
人類資金 阪本 順治
HK/変態仮面 福田 雄一
あさひるばん やまざき十三
ダイ・ハード ラスト・デイ ジョン・ムーア
クロユリ団地 中田 秀夫
渾身 KON-SHIN 錦織 良成
ペタル・ダンス 石川 寛
さよならドビュッシー 利重 剛
10 プラチナデータ 大友 啓史
RETURN (ハードバージョン) 原田 眞人

 

 1位は「俺はまだ本気出してないだけ」。バカバカしい映画も私は好きである。ダメダメな男が主人公でもかまわない。…それでも観終わって感動したり、爽やかな気分にさせてくれるのが映画の良さである。だがこ映画、ただただ最後までテンポはダラダラ、見せ場もヤマ場もなく、面白くも何ともない。いったい何を描きたかったのか分からない。それだけならまだしも、一番許せないのは、40歳も超えた主人公が突然“マンガ家になる”と宣言してからの展開。才能も熱意も無く、努力もしないナマケモノ中年男が、単に思いつきでなれる職業じゃない。仕事というものをナメてる。いや、映画作りそのものをナメてるのではないか。今年一番、途中で席立って出たくなった映画である。

 2位は「人類資金」。原作が福井晴敏で、“M資金をめぐるサスペンス”と聞いて、これは面白そうだ、と期待したのだが…。まず、怪しげな男が佐藤浩市扮する詐欺師に、「10兆円のM資金を報酬50億円で盗み出してほしい」と依頼するのだが、チンケな詐欺師(冒頭の詐欺の手口すらも安っぽい)にこんな依頼をする時点でガックリ来た。そんな大規模な依頼をするなら、ゴルゴ13クラスの国際的かつ知能的な大物を相手にすべきだろう。
まあそれでも、ひょっとしたら「スティング」ばりの、あっと驚く頭を使ったスケールでっかい詐欺をやってくれるのではと期待したが、なにやら経済に関するややこしそうな解説ばかりで眠たくなるし、
途中から、話があっち飛び、こっち飛びでだんだん収拾がつかなくなり、いつの間にか発展途上国をどう救済するか、それには子供たちにPDA(ポケットパソコン?)を配るのがいい、と森山未來が国連で演説始めるのには口アングリ。詐欺師もM資金もどっかに行ってしまって、別の映画に迷い込んだのかと思った。そもそもインフラ整備も出来ていない発展途上国で、ネット使ったハイテク機器が活用出来るのか、仮に出来たとして、それで子供たちが幸福になるなんてノー天気過ぎないか。金を使うなら、そんな事によりも学校や教育施設を建設する方に使うのが先だろうが。何考えてるんだか。
福井晴敏は「亡国のイージス」「終戦のローレライ」までは面白かったが、最近の「O.P.ローズダスト」はまったくつまらなかった。この映画と同時進行で書かれた小説の方もほとんど評判になってないようで、もう才能を使い果たしたのだろうか。カネ返せ、と言いたくなる。…あ、この映画自体がサギだった、というオチなのか(笑)。

 3位は「HK/変態仮面。1位と同じ監督作。ワーストに同一監督作が2本も入るのは初めてだが、それも仕方ない出来。それにしても顔を隠して体はほとんどハダカの仮面ヒーロー…て、これ永井豪原作のコミック「けっこう仮面」のパクリでしょうが。まだそっちの方はムフフと楽しめるが、男の裸も変態も全然見たいと思わないし気持ち悪い。映画館でも恥ずかしくて題名を言えない。それでも最後に爽快感や感動が用意されてればまだマシだが、結局最後までグダグダ、テンポ悪く、気持ち悪いままだった。もうこの監督の作品は観ない。私はくだらない作品も結構好きな方で、三池崇史「ゼブラーマン」や井口昇「ロボゲイシャ」なんか大好きである。せめてこのくらいのレベルは保って欲しい。福田監督には、三池作品や井口作品を100回以上観る事をお奨めする。

 4位「あさひるばん」。監督のやまざき十三氏は元東映の助監督だったのだそうな。漫画原作者は、映画監督になりたかったが断念した人が多い、とは聞いていたが。念願を果たしてご同慶、と言いたい所だが、残念ながら出来は芳しくない。題名がちっとも面白くないし、演出もコメディとしての間が悪すぎる。役者ももっとコメディの達者な人を起用すべきでは。山寺宏一なんて何で起用したのか。少しも笑えない…ばかりか見ててイライラして来る。いい歳をした大人が、病院で大声で怒鳴ったり、夜中に取っ組み合したり。ハタ迷惑なバカ騒ぎにはついて行けない。「釣りバカ−」がまだ見れたのは、山田洋次の脚本に、西田、三國、谷啓など芸達者な役者さんたちの絶妙の掛け合い等、プロがきっちりプロの仕事をしているからである。そして酷い、と思ったのは、ヒロインの娘の父親が誰か、という展開。「マンマ・ミーア」とそっくりなのはご愛嬌としても、3人がそれぞれ自分が父親か、と心当たりがあるという事は、みんな彼女と寝た、という事になる。あげくに昔の野球のライバルも関係してたなんて。このヒロインは誰とでも寝るのだろうか。これは笑えない。映画全盛期ならこんな脚本提出したら、プロデューサーから叩き返されるの間違いなしである。「釣りバカ」で儲けさせてもらったので、松竹としてはご祝儀のつもりなんだろうか。だとしたらカネ出す観客はたまったもんじゃない。松竹もこんな事しててはますます観客が離れて行きますよ。

 5位ダイ・ハード ラスト・デイ」。1作目は、「なんで俺が」とボヤきながらも、愛する妻を救う為に知力と体力を振り絞って頑張るマクレーン刑事の奮闘ぶりに泣けたのだが、シリーズが進むごとにジェームズ・ボンドばりのスーパー・ヒーローになって行ったのにはガッカリ。本作ではついに他所の国(ロシア)でハタ迷惑な大騒動を巻き起こし、あげくに放射能汚染されてる原発内でドカバカ破壊しまくるに至っては開いた口が塞がらなかった。故郷に帰れない避難民が見たらどう思うだろうか。無神経にもほどがある。頼むから、もうシリーズは打ち止めにして欲しい。

 6位クロユリ団地」。「リング」「仄暗い水の底から」に感心した中田監督だが、これは面白くない。だいたい怖くない。霊能者が祈祷始める辺りはコントみたいで笑ってしまった。そもそも、あの子供がなんで暗黒皇帝(笑)並みのサイキック・パワーを持ってるのか意味不明。これじゃホラーではなくてPCゲームの世界だよ。ラストも後味悪し。

 7位渾身 KON-SHIN」。こういう内容の作品は好きなので期待したのだが。テンポと間合いが悪いのでせっかくの感動が途切れがち。早く次へ進めよと言いたくなる。後半の相撲シーンはとにかく長い。ダレる。上映時間がなんと134分もある。この内容なら100分以内に収められるはず。昔のプログラム・ピクチャーでも見直して(特に岡本喜八か増村保造)、緩急自在にウエルメイドな映画を作る手法を勉強し直して欲しい。

 8位ペタル・ダンス。宮崎あおい、安藤サクラ、忽那汐里、と個性的な若手女優を並べているのに、全然つまらない。特に大きなヤマ場があるわけでもなく、ただただあっちウロウロ、こっちウロウロしてるだけの映画。こういう内容の映画を作るなら、脚本、特に会話を練り込まないといけない。演出も平板。若手監督だから応援したいのだけど。上の作品と同じく、若い監督は、古い名作を何度も観て、観客の心を掴む映画作りを研究して欲しい。

 9位さよならドビュッシー」。ミステリーなのだが、すぐ底が割れてしまい、つまらない。そもそも基本トリックが、小説ではなんとか誤魔化せるけれど、映像化したらすぐバレる程度のもの。私はすぐ分かってしまい、後はなんで周りの人間が分からないのかとイライラした。だいたい声の違いは(特に耳のいい音楽家なら)一発でバレるでしょう。これは映像化したのがそもそも間違いである。

10位プラチナデータ。「るろうに剣心」が凄く面白かったので、大友監督の新作と聞いて大いに期待していた。その分、期待外れだったので点が辛くなった。原作は大変込み入っているので、シナリオ化は難しかったと思うが、ベテランのライターだったら、削るべき所はバッサリ削ってコンパクトに纏められたと思う。ハリウッドで映画化したならもっと面白くなっただろうと思える題材だけにもったいない。決して駄作ではないが、大友監督への期待の現われとしてのこの順位である。

 次点「RETURN (ハードバージョン)」。スマートホン向けに作ったドラマを再編集したのだという。そんなお手軽なものを劇場でカネ取って見せるというのもどうかと思うが、監督が原田眞人で、かつての秀作「KAMIKAZE TAXI」の続編的作品というふれ込みに触手が動いて観に行った。そうでなければ観ない。それにしても原田監督、風格ある文芸ドラマ路線で成功してるのだからアクションは卒業してもいいのに、まだ作りたいのだろうか。そりゃ深作欣二も同じような事やってるけれど、深作はアクション撮ってる時が生き生きしてる人。資質が違うと思う。で、本作は痛快アクションに徹底すりゃいいのに、ラストで唖然の腰くだけ。そりゃないでしょう。ま、土屋アンナが面白かったので、かろうじて圏外となったが、中途半端な事をするなら、いっそ若手監督にまかせた方が良かったのではと思う。

 
 
今年度は日本映画がほとんどを占めてしまいましたね。
なお、松本人志監督の「R100」はまったく観る気が起きなかったので未見につき、ワースト入りは逃れましたが、観てれば多分ワーストワン候補でしょうね。レンタルで100円くらいになったら観ましょうか(笑)。
その他、多分ワーストだろうと予測して、見なかった作品は次の通り。
「ATARU」
「貞子3D 2」「ガッチャマン」「ムービー43」…当たってたでしょうか。

 

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